第13章 協力
然し、起き上がることなく、驚きのあまり固まってしまっている男の手からヒョイッと封筒を取る。
「あ?手前のせいかよ」
「私は何もしてないよ。只、私に隠し事をしながらの報告に耐えれるだけの精神力を持ち合わせていなかったようだねえ」
「……そりゃ自業自得だな」
目の前のやり取りをボーッと眺めている伝令の男。
男は此処に来た経緯を回想していた。
調査員の大先輩から「礼は弾むから」と懇願されて報告書を持ってきた。
その顔は真っ青。
理由を訊けば「怖いから」と、先輩は答えた。
正に、太宰幹部の云った通りだ。
しかし、だ。
何故、そんなに嫌なのだろうと思った。
此れが自分には理解できない。
今朝、首領からの伝令を運んだとき
太宰幹部が本当にあのまま「逃走してしまったら」と焦りはしたが、それは恐怖とは無縁の感覚だ。
寧ろ、中原幹部との漫談でも観たかのように少し愉しかった気もする。
だから、先輩の頼みを断らなかった。
何故、そんなに嫌なのだろう。
太宰幹部だってその辺の人間と何ら変わりはないじゃないか。
だって、ほら
「ご苦労様」
「っ!?」
素敵な笑顔で話し掛けてくれる、こんなにも綺麗な女性なのにーー
「……。」
中也は男を鋭い目で一瞥すると、舌打ちした。
その行為に、直ぐ紬が反応する。
「何、如何したの?」
「………だから此処じゃ厭だったんだよ」
「なん……」
理由を訊こうと顔を中也に向けた時だった。
懐で振動が生じる。
その原因を取り出すと紬はソレを耳に当てた。
「もしもーし」
何の迷いなく電話に出た様子から中也は相手を悟り、溜め息を着いた。
仲直りした途端にコレか。
中也は呆れた顔で紬を見ていた。
その時だった。
ガバッ!
「うおっ!?」
報告すら適当に対応していた紬が、見えない相手に勢いよく起き上がったのだ。
その行動で、伝令の男も現実に引き戻されたようだ。
「一寸、待ち給え!」
何かあったな、こりゃ。
電話の内容など聴こえもしない筈なのに、『勘』にそう告げられた中也は、伝令の男に出ていくように指示した。
男は一瞬、嫌そうな顔をしたが直ぐに退室していった。
男が出て行くのを待っていたのか。
それを見届けてから紬は口を開いた。