第12章 新人
そんな中也とは打って変わって、何となく理由を察した山吹は苦笑していた。
「では中原さん。私も昼食を取りに失礼します」
「おう。終わったら樋口のところへ向かえ。場所は誰かしら知ってんだろ」
「判りました………」
「?」
歯切れの悪い返事に中也が気付く。
「何だよ」
「あの……それ。太宰幹部の手作りなんですか……?」
「俺が知るかよ。彼奴の嫌がらせは神の領域だ。喩え彼奴に出来なくても誰かしら使ってでも成し遂げるからな」
「そうなんですね………で、食べるんです?それ。あの、若し宜しかったら一緒に食事に行きませんか?」
「……。」
中也は溜め息を着く。
そして、云った。
「先刻、話した内容。完璧に把握して無ェな」
「え?」
山吹は少し慌てる。
「俺のスケジュールでは次の業務のために外出しなきゃなんねえ時間なんだよ」
「!?」
慌てて先刻メモした手帳を開く。
其所には中也の云う通り、『外商13:00~』と記載されていた。
そして、バッと自身の腕にあるモノに目をやる。
そのモノが示す今は『13:30』過ぎーーー
「もっ…申し訳ありません!勤務について早々からこんな不手際を!!」
「謝ンな。手前のせいじゃ無ェよ。云っただろーが。『俺の予定は確実に狂う』って」
「!」
中也は何度目か分からない溜め息を着くと、机に肘を付いて明後日の方向を見る。
「此の程度では済まねぇからな…紬の『嫌がらせ』は。だから手前も精々、彼奴には気を付けるこった。機嫌を損ねると碌な目に合わねェぜ?」
「えっと……?」
「まあいい。取り敢えず、俺は忙がしい。手前も早く昼メシを済ませて樋口んとこ向かえ。ウチにある武器で自分が最も得意とするものを選べ。そして、それを完璧に使いこなせるようになるまでを手前ェの仕事とする」
「っ!」
ピリッとした空気に、姿勢を正す。
山吹は中也の云った、言葉の意味を正確に理解したのだ。
要は「武器を扱いこなせない……戦闘に於いても役に立てない人間は不要だ」と。
山吹はグッと拳を握り締めて一礼した。
「失礼します」
「おう。頑張れよ」
パタンッ……
漸く中也の執務室に静寂が訪れたのだった。