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【文スト】対黒・陰

第12章 新人


「……。」

中也は机の上に置いたままの弁当をジッと見た。


嫌がらせが紬の仕業だと気付いたように、
中也には、この弁当を作った人物が他の誰でもない……紬が作ったモノだとすぐに判っていた。

理由なんて『勘』でしかないが、恐らく間違ってはいないだろうと何処か確信めいたモノが中也の中に在った。

「チッ…何もこんな弁当じゃなくても良かっただろーが」

悪態付いて、再び紙袋の中を覗く。

思った通り、きちんと用意されている箸と手拭きを取り出して使用すると中也はその弁当を食べ始めた。

一口食べて『勘』が『殆ど中たり』だと思い、そのまま食べ進める。


ピリリリリリリ……


そして、着信を告げたスマホを取り出して電話に出た。

「……手前、何時帰ってくんだよ」

『ん?もう商談は終わったから何時でも帰れるよ』


ディスプレイなど一切確認してもいないのに、出て早々に話を始める中也。
電話の相手が『何処に行ったのか』と苛立つ原因であったにも関わらず、中也は落ち着いて話していた。


中也は、先刻、この電話の相手に電話を掛けた。


そして、それが成し遂げられなかったところで、漸く気付いたのだ。
ーーー既に『紬の思うように事が運んでいること』を。


気付けば良かったのだ。


首領の部屋の前で別れた際に紬が『時間を気にした』時点で。
ーーーその瞬間から『何時もと違う何か』が始まっている事を。


そうすれば、怒る労力も必要無かった……


中也はうんざりした声で続けた。

「戻ったら真っ直ぐ俺んトコ来い」

『うふふ。そんなに心配せずとも確りと契約を結んだよ?多分、中也が行った場合よりも遥かに好条件で』

「んなこと云われなくても判ってるっつーの。自慢の為だけに電話してきたのかあ?」

『いやいや真逆。ーーー足りないでしょ?ソレだけじゃ』

「……。」


ーーー『勘』は『大当たり』だった。判ってたけど。


『中也?』

「いや、いい。取り敢えず早く帰って来い」

『判ったー。一休みしてから帰るよ』


「は・や・く帰れっつってんだろーが、この馬鹿女!」


ツー…ツー…。



「チッ。ホント、毎度毎度、何処まで見えてんだよアイツには」


怒鳴る前に切られてしまった端末を置いて、中也は再び食事をとり始めた。
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