〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第77章 桃色戯画-戯れに溺れる蜜ー❀織田信長❀
────だが、俺は俺をあなどっていた
『想像が膨らみますね』
その光秀の放った、一言。
それが、自分自身を堕とす火種となる。
俺は天下布武のためなら…と。
美依と少し離れるくらい、何とも無いと思っていた。
だが、たった十日。
されど…十日。
美依と離れた事で、知らずのうちに溜まっていた『我慢』は爆発寸前まで膨れ上がり…
火種が引火した鉄砲の如く、俺を一直線に堕としていくのだ。
*****
「ふぅ…今宵は明るいな」
夜も更け、濃紺の空に望月と星々が輝く頃。
俺は天主から張り出した板張りの上で、天を仰ぎながら酒を煽っていた。
今宵は望月が随分明るい。
月明かりに照らされ…濃い月影が、板の上に黒々と映っている。
そんな中で、俺はある事を考え…
また一つ、深いため息をついた。
(美依、遅い……)
夜半には安土に到着すると。
そう聞いていただけに、帰ってくるまで待とうと試みたが、美依はなかなか帰って来ない。
帰ってくれば真っ先にここに向かうはず。
だから、まだ到着していないのだろう。
待ち人来らず。
美依が居なければ夜も眠れない。
だから、起きている事は苦痛ではないが、待っている間は時の進みが遅いように感じられる。
────早く、あの温かな肌に触れたい
この隙間の空いた様な心は、美依でないと埋められないから。
早くこの腕に抱き締めて、唇を奪って。
その温もりを身体いっぱいに感じたい。
そして、着物を暴いて、熱を溶け合わせる。
そんな瞬間を思い描けば、思い描くほど…
美依への恋しい気持ちが募った。
「……」
その時、俺は何を思ったか。
酒杯を置いて立ち上がり、天主の隅に置いてある、例の春画へと足を向けた。
もしかしたら、酒に酔っていたのかもしれない。
ただ、美依に似ているという絵の娘に…
自分でも解らない思いを馳せたのか。
俺は絵に近づくと、また乱暴に布を剥がした。
そこから姿を見せた、淫画は……
月明かりに照らされて、また昼間とは違う妖しげな雰囲気を醸し出した。