〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第75章 純華溺愛恋情論《前編》❀明智光秀❀
「光秀〜、美依との甘味屋逢瀬はどうだった?」
それから、数日後。
城の書庫で調べ物をしていた俺は、珍しくそこに居合わせた政宗に声を掛けられた。
顔を見れば、相変わらずの不敵な笑み。
蒼い目が、獲物を得た獣のように光り……
その腹は、何を考えているか、容易く想像が出来た。
だから、俺はいつも通りに答えてやる。
にやりと口元に笑みを浮かべて、己の腹の底は隠すように。
「なんだ、政宗。やきもちか?」
「俺はそんなモンは妬かねぇ。甘味屋で随分と仲良くしてるのを見たからな、お前らが」
「それは知らん、盗み見たのか?」
「たまたま通りかかっただけだ。お前、美依には随分優しい顔をするんだな、惚れてんのか」
「まさか…冗談も程々にしておけ」
そう言って、再度書簡に目を戻す。
政宗なんかに、知られる訳にはいかない。
政宗にとっては、恰好の獲物を見つけただけに過ぎないのだろう。
この胸の内を、他人に知られると厄介だ。
だから、俺は得意の嘘で欺くだけ。
『美依には随分優しい顔をするんだな』
そんな事を言われても、俺は知らない。
無意識にそんな表情になっていたのだろうか。
「なんだ、美依に惚れてるわけじゃねぇのか」
「小娘に欲情する気は、さらさらない」
「へぇ…なら」
すると、政宗の手が伸びてきて、俺の手の中にある書簡を、ぱたんと無理やり閉じた。
そして、耳たぶに唇が触れるほどの近さで…
なんだか艶を帯びた声色で、俺に言った。
「────俺が美依をもらう」
(────…………!)
その言葉に、思わず視線を政宗に向ける。
それを見た政宗は『勝った』とばかりに口角を上げ……
挑戦的な眼差しを俺に向けた。
「なんだ、光秀。文句を言いたげだな?」
「別にそのようなつもりでは……」
「好きじゃないなら、構わねぇだろ?お前には反対する理由はないよな」
「……」
────コイツ、俺を煽るつもりか
反論すれば、全て認めるようなものだ。
俺自身が蓋をしている気持ちなのに、政宗なんかに躍らされる気は無い。
そう思い、ふいっと視線を逸らして、吐き捨てた。