〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第73章 望月の恋人《前編》❀徳川家康❀
「家康、どうしたの?」
「いや……ねぇ、美依」
「うん?」
「美依は、俺の事、好き?」
突然そう聞かれ、私は思わず目を見開いた。
何故、今さらそんな当たり前の事を聞くんだろう。
それでも、私は深く頷き……
家康に向かって、笑いかけた。
「もちろんだよ、家康のこと、だいすきだよ!」
「なら、俺の言う事を聞けるよね」
「言う事?」
「美依……」
────すると、家康は冷ややかな眼差しを向け
なんの情もなく斬り捨てるように、言葉を紡いだ。
「この城から、出ていって」
(え……?)
「どういう、こと……?」
「役に立たないあんたまで、面倒見きれない。あんたが邪魔になったから、お荷物は抱えられないし。女一人なら、敵も見逃してくれるよ」
「ちょっと、意味が解んな……」
「理解してよ、本当に馬鹿だね、あんた」
家康を見つめ、言葉を失う。
いつものような、愛情を込めた『ばかだね』ではなく、私を軽蔑するような冷ややかな声色。
それは初めて会った時より、もっと……
もっと感情がなくて、温かみの欠片も無い。
家康の言葉を理解するまで、時間がかかった。
それでも…突き放すように言われた言葉に、私の感情は膨れ上がって。
私はその感情のままに、言葉を吐き捨てた。
「嫌っ……!」
「……」
「出ていかないよ!出る時は、家康も一緒にだよ!」
すると、家康は面倒くさそうに、ちっと舌打ちをして。
私の腕を、痛いくらいに掴んだ。
「話にならない、あんたと話す時間は無駄だ…来て」
「え、どこに……」
「外に決まってるでしょ、さっさと行って」
そう言って、私を天守から引きずり出す。
足がもつれそうになっても、構わずぐいぐいと引っ張られ……
私は家康が言う事が信じられず、私は涙声を荒らげた。
「なんで、なんでいきなりこんなこと……!」
「ずっと考えてた、役に立たないあんたを守る義理があるのかって。俺は役に立たない人間は嫌いだ…だから、今すぐ俺の目の前から消えて」
家康の言葉が、まるで矢のように心に突き刺さる。
家康の顔を見れば…なんの感情もない翡翠の瞳があった。