〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第73章 望月の恋人《前編》❀徳川家康❀
────顕如が私達の動きに気づき
追っ手を差し向けて、襲ってきたのだ
「美依っ……」
「家康っ……!」
その時、私が居る天守に、家康が強ばった顔をしてやって来た。
私を見るなり、傍に走ってきて、ぎゅっと抱き締めて。
その温もりに、張り詰めていた心が、少しだけ和らいだ気がした。
「美依、大丈夫?」
「私は大丈夫だよ…家康は?」
「駄目なんて言ってられないでしょ、睨み合いはまだ続いてる…正直このままどう転ぶか解らない」
「……っ」
「相手も城攻めの用意はないだろうから、無理には押し入っては来ないだろうけど…それでも、長くは持たない」
家康の淡々とした言葉に、改めて身体が強ばっていく。
顕如が私達に差し向けてきた軍勢は、私達の子隊の三倍以上の数だった。
手勢では、どう足掻いても勝てない。
だから、こうして使われなくなった古いお城に逃げ込んだのだけど……
でも、この状態も長く持つわけじゃない。
早く安土に帰り知らせないと、前線で戦う信長様達だって危ないんだ。
(どうしたらいいんだろう……)
私に出来ることは、何も無いのかな。
ただこうして、身を隠すしか出来ないのかな。
自分が不甲斐なさすぎて、思わず涙ぐんでしまう。
すると、家康は少し身体を離し、私の顔を覗き込んで……
そのまま、唇を優しくまぶたに押し付けた。
「ごめん、美依」
「え……?」
「あんたを危険に晒して、ごめん。美依にはもっとふにゃふにゃ笑っていて欲しいのに…そんな顔させてる」
「家康が悪いんじゃないよ!」
「でも大丈夫、あんたは俺が守るよ。だって約束したでしょ?」
家康は優しく微笑んで……
私を勇気づける一言をくれた。
「この戦が終わったら、あんたをお嫁さんにするって。だから守り抜く、何があっても」
(……ああ、そうだ)
私と家康は、今回の戦から無事に帰れたら、祝言を挙げようと約束したんだ。
私は正式に家康のものになれる。
だから…へこたれてる場合じゃない。
なんとしても、自分の未来を掴み取らなければいけないんだから。
私はぐいっと目元を拭うと。
家康に、精一杯の笑顔を見せた。