〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第70章 天色、椛、幸福の螺旋❀織田信長❀
────美依は戦が嫌いだ
人が傷つくことも嫌いだし、ましてや命を奪うなど。
そうしなければ自分が死ぬと解っていても……
美依は人を手に掛けるのを、拒む女だ。
何千何万の命を奪ってきた、この血なまぐさい手。
それはすでに、人を温めることなど、忘れていた。
美依に出会わなければ──……
俺は全て凍りつかせたまま、覇道を進んでいただろう。
『信長様の手、あったかいなぁ……』
そのように言ってくれるのは、貴様だけだ。
だから、守らなければならない……美依。
純粋故に、誰より尊い。
そんな貴様だからこそ、俺は──……
もうこの手から手放す事など、出来はしない。
「────美依」
「はい」
「貴様に話がある、このまま聞くか?それでも俺は構わんが」
「真面目なお話ですか?」
「真面目と言えば、真面目だな」
「なら…ちゃんと起きて聞きます」
「そうか、ならば先程のように膝に座るがよい」
ふわりと起き上がり、美依を膝に抱き直す。
今度は顔がきちんと見えるように、美依を横座りにさせて。
左腕でしっかり腰を抱き、右手で美依の手を握ってやると、美依は少し緊張したような面持ちで視線をぶつけてきた。
「美依、酔っ払っているからと、話した事を忘れたりしようものなら、仕置きするからな」
「ちゃ、ちゃんと聞いて覚えてますっ」
「なら良い……美依」
「はい」
少し涼しい風が、頬を撫でる。
鮮やかに色付く世界の中、俺は愛しい者をしっかりと瞳に映し……
そのまま、柔らかな口調で美依に向かって話し始めた。
「貴様には、感謝している」
「え……?」
「貴様がいなければ、人がこのように温かいものだとは知らぬままだった。愛する事の意味も、尊さも…貴様が全て俺に教えた事だ。俺に未知なる感情の意味を理解させ、そして与えてくれた」
「信長様……」
美依の瞳がびっくりしたように見開かれる。
別に驚く程のことではないのに……
美依には伝えても伝えきれないから。
身に巣食う熱情を、溢れる愛しさを。
言葉では足りないなら……行動で見せるしかない。