〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第70章 天色、椛、幸福の螺旋❀織田信長❀
「信長様の手、あったかいなぁ……」
「それだけ貴様の足が冷えていたのだろう、風邪を引くぞ?」
「信長様は心配症ですねー、ふふっ」
「心配して何が悪い。身体も冷えると良くない…もっと後ろにもたれかかってこい」
片手で足を擦りながら、もう片手で身体をぎゅっと引き寄せる。
美依はその温かい身体を背後の俺に預け、今度は嬉しそうにふわふわ笑んだ。
まったく、恥ずかしがったかと思えば、そのように無防備に愛らしく笑って。
間近でそんな表情が揺れるたび……
心が温かくなり、甘く痺れる感情が溢れ出す。
(ああ…本当に、底無しに愛しく思えるな)
湧き出る感情は、己を麻痺させ、微温湯に浸かってしまうようだと解ってはいても……
それでも止められない、美依が愛しすぎて。
────それは、紅葉のように紅く染まる己の心
「信長様……」
「どうした」
「良かったら、少し寝転んでみませんか?」
「寝転ぶのか?」
「はい、空に紅葉が映えて、とっても綺麗ですよ」
美依がふにゃりと愛らしく笑ってそう言うので、俺は美依を腕に抱えたまま、草むらに横になった。
腕の中に温かな温もりを感じつつ、天を仰いで空を見上げる。
いつしか茜が濃くなったその空は、金色に光る薄い雲を棚引かせ……
空を行く鳥達が、漆黒に見えるほど鮮やかな夕焼け空に変わっていた。
そして視線を移せば……
木の葉一枚一枚が夕陽を纏い、夕紅葉が鮮明に目に飛び込んでくる。
────ああ、綺麗だ
普段は情緒など感じる暇もないが、今ばかりは。
美依と共に風景を見て、素直にそう思えた。
「綺麗ですね〜……!」
「ああ、空が荘厳で……紅葉がよく映える」
「今日、とっても楽しかったですね!」
「ん?」
「みんなで山を巡って紅葉を見て…お弁当を食べて、飲んで騒いで。ずっとこんな時間が続けばいいのにって思ってしまいました、ふふっ」
(美依……)
ふわふわと酔っ払っていながらも、その発言の真意に気づき、思わず胸元の美依に視線を落とす。
今は戦乱の世。
そして我が身は天下取りの途中で。
こんな平穏な時ばかりは続かない……そんな事は口にしなくても解っているからだ。