〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第70章 天色、椛、幸福の螺旋❀織田信長❀
「美依なら酔ったから涼みに行くと言っていましたよ」
「涼みに?」
「はい、少し離れた所に小川があるので、そこで休んでくると…その林を抜けた先です」
そう言って、またふわふわしながら、すぐ側の林を指差す秀吉。
一人でなんぞ行かずに、俺を誘えば良いものを。
そんな事を思って、ふと空を見上げる。
蒼く澄んで高かった空は、いつの間にか茜色を帯び始め、もうすぐ日暮れと言う雰囲気を、ありありと醸し出していた。
秋の日はつるべ落とし。
陽が沈み始めたら、一気に暗くなってしまう。
(……心配だな、様子を見に行くか)
俺は手に持った杯を下に置くと、軽く襟を整えて立ち上がった。
酔った美依を一人にしておくのは、心許無い。
小川に落ちたら大変だし、何かあったら……
若干不安を覚えて眉をひそめると、秀吉は不思議そうに俺を見上げた。
「信長様、どうかなさいましたか?」
「美依の様子を見てくる。貴様らはそのまま続けていろ」
「畏まりました」
何故か大の字になって横になる政宗や、それを見て意地悪そうな表情をする光秀らを置いて、俺は一人美依を探しに出た。
確かに心配なのもあるけれど、理由はそれだけではない。
今日は美依に伝えなければならない事がある。
それを話すにも、二人きりになれた方が良い気がするし。
薄く雲がたなびく空を、瞳に写しながら……
美依の顔をそこに思い描き、俺は思わず頬を緩めた。
────…………
(……居た)
秀吉の言われた通り、小さな林を抜けてみると。
さらさらと水の流れる音が聞こえ、開けた視界の先には、鮮やかな紅葉の赤と、小さな小川が流れるのが見えた。
そして……
細かな砂利が敷き詰められている、その川岸に。
美依がちょこんと腰を降ろし、小川に足を浸している姿が確認出来た。
足元を一心に見つめ、どうやらこちらに気がつく様子もない。
ならば……と、俺は美依の視界に映らないように、こっそりと背後に回り。
忍び足で、そのまま美依に近づいた。