〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第67章 蜜な想いはくちびるから《前編》❀徳川家康❀
「くっそ……!」
────ドンッ……!!
立ち止まり、壁を拳で叩いても収まらない。
美依の髪は、いい匂いだった。
美依の耳たぶは、温かく柔らかだった。
俺の、俺だけのものにしたい。
もっと口づけて、甘く啼かせたい。
火照った身体が、熱い──……
その日、俺は美依の料理を食べずに御殿に帰った。
そして、疼く身体を自分で慰めた。
情けないと思っても、手が止まらなかった。
不意打ちに聞いた、美依の声が離れなくて……
いつまでも消えずに、頭の中で響いていた。
────…………
「美依……」
「ご、ごめん家康、またあとでね……!」
美依がそう言い残し、俺に背を向けパタパタと走っていく。
俺はその小さな後ろ姿を見送りながら……
小さくため息をついて、思わず後ろ頭を掻いた。
────あの日、髪と耳に口づけてから
美依の様子が、明らかにおかしい。
顔を合わせると、真っ赤になって逃げてしまうのだ。
これは……やっぱりしくじったのか?
(俺、元々そんなに触ったりする人間じゃないしな)
政宗さんみたいに、普段から美依の頭や頬に触れてるならまだしも……
いきなりあんな事をすれば、びっくりするに決まってる。
だから、美依は俺を避けているのか?
嫌だったとか、もう二度と触れられたくないとか?
……それって、かなり傷つくな
「……直接聞いてみるしかないか」
俺は小さく決意を固めると、逃げてしまった美依を探した。
これなら口から『好き』と言ってしまった方が、よっぽど早い。
美依に避けられるのは…結構堪える。
多分、なんであんな事をしたの?と問われれば、素直に理由を話さなければいけなくなるから……
それなら『好きだから口づけた』と。
『気持ちに気づいて欲しかった』と言えばいい。
もう、美依に触れた、あの時から……
俺の気持ちは前以上に高ぶって、堪えられなくなってる。
隠しておけない。
美依が好きすぎて、止まらない。
────だったらこの唇から、魔法の言葉を囁くのだ