〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第67章 蜜な想いはくちびるから《前編》❀徳川家康❀
「えっ…いえ、やす……?」
ちらっと視線だけ、美依に向けてみれば。
美依は、途端に頬をぽっと赤く染めた。
髪からふわり…となんとも言えない、いい香りが漂う。
それだけで、心の柔らかい部分が刺激され、もっととがっつきたい衝動に駆られるが……
俺はそれを、なんとかぐっと堪えた。
「……」
「家、康、あのっ……」
「……」
(……これだけじゃ、ただ照れるだけか)
美依が、あまりにもたどたどしく声を発するので、俺はちゅっと軽い音を立てて、一回唇を離した。
そのまま指の力を緩めれば、するりと髪は手から逃げてしまい、若干心に寂しさが生まれる。
美依はと言うと、顔を赤くしたまま、俺をじっと見つめていて。
好きな子にこんな風に見つめられるのは気恥しく、俺は思わず美依から視線を逸らした。
「えぇと…これはつまり」
「……っ」
「そーゆー事だから、美依」
……何言ってんだ、俺。
自分でも意味不明な発言に、なんだか呆れてしまう。
それでも、好きな子に初めて唇で触れたという事実に、どうしようもなく心は高ぶり、無性に落ち着かない気分にさせられた。
ただ髪に口づけただけなのに……
こんなんでこれ以上攻められるのかと、不安まで覚える。
「家康、そのっ……」
「うん」
「今、料理できた、からっ……」
そう言って、美依はまた前にくるっと向き直り、何事も無かったかのように作業し始めた。
しかし…照れているのは明らかで。
ギクシャクしながら、鍋の中を杓子で混ぜている。
(……可愛いな、馬鹿みたいに)
そんな姿を見ていると、もう少し。
もう少し…美依に近づきたくなってくる。
攻めたっていいよな、口づけと言う方法で。
俺は一回美依の両肩に、ぽんと手を置くと……
後ろから耳元の髪を、耳たぶに掛けた。
そして、剥き出しになった小さな耳に。
頭を傾け、優しくはむっと……
唇で甘く甘く噛みついた。