〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第67章 蜜な想いはくちびるから《前編》❀徳川家康❀
「────美依」
「ん?……あれ、家康?」
声を掛けると、美依は首だけ後ろに振り返り、俺を見てふにゃりと笑った。
相変わらずの、腑抜けた可愛らしい笑顔。
そんな事を思い、俺も目元が緩んでしまう。
すると、美依はもう一度前に向き直り、忙しなく鍋を掻き混ぜながら、俺に言ってきた。
「軍議終わるまでには間に合うと思ったのに、間に合わなかったなぁ…家康、ちょっと待っててね」
「どーゆー意味?」
「今日も味見してもらおうかなぁと思って、軍議終わったら声を掛けようと思ってたの。でも意外に苦戦してて…もう出来るからもう少し待ってね」
「……ふーん」
(俺に食べさせようと、頑張ってたのか)
美依の後ろ姿を見ながら、嬉しくて思わず口元まで緩む。
また美依の料理が食べられるのか。
それはすごく嬉しいが、それだけでなく……
なんか、こーゆーのって恋仲同士みたいだな。
そんな変な想像と期待までしてしまって、心の中が騒いだ。
たすき掛けをした、小さな後ろ姿。
後ろで一つに束ねられた、艶やかな黒髪が揺れるたび……
どうしようもなく心まで揺れて、落ち着かなくなる。
(髪への口づけは……思慕)
思慕とは、恋しく思う、愛しくて堪らないといった意味だ。
美依は愛しすぎて、この上ない。
何をしていても可愛いし、何を言っても、どんな表情をしてても可愛いし。
故に、この子に触れたいと。
こんなに強い恋情を抱いたのは初めてだった。
だから、攻めるなら──……『ここ』からだ。
俺は、さらに美依に近づくと。
サラサラと揺れる、束ねた黒髪をそっと掬いあげ……
そのまま、それに唇を押し当てた。
「ん……?」
それに気がついた美依が、くるりと振り返る。
振り返ったので、髪は指から離れ、手からするりと逃げてしまったが……
不思議そうに俺の顔を見る美依を見ながら、もう一度。
俺は美依の髪の束を手で掬い。
見せつけるように、目の前でそれに口づけた。