〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第67章 蜜な想いはくちびるから《前編》❀徳川家康❀
パタパタパタ……
その時、廊下の奧からこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
まずい、美依が戻ってきた。
そう察した俺は、咄嗟に懐にその書物を隠す。
すると、一瞬遅れて襖が開き……
案の定、美依が茶を持って顔を出した。
「家康、お待たせ!」
「そんなに待ってないから、大丈夫」
────その後、美依と二人で茶を飲み
美依に気づかれぬまま、俺はその書物をこっそり御殿に持ち帰った。
が、この書物が受け身の俺を大きく変える事になる。
美依に想いを寄せる自分の、背中を後押しするような。
俺はそんな気がして、一気に攻めの自分に転じる事になるのだ。
────…………
「……南蛮の文字なのか、なんて読むの、これ」
その日の夜更け過ぎ。
俺は蝋燭の灯りで照らしながら、その書物を読み解いていた。
はっきり言って、難解この上ない。
辞書があるわけでもないのに、五百年後…未来の書物を読み解こうなんて無謀な挑戦なのは解っている。
それでも……気になるのだから読み解くしかない。
俺は色鮮やかに描かれている絵と文字を見比べながら、その文章の意味を探っていった。
(……口づけしてるんだよな、この絵)
幾頁にも渡って、男が女の色々な場所に口づけてる絵が続いている。
額だったり、耳だったり、頬……
それと表紙の文字を掛け合わせるのなら。
『口づける場所の意味と、部位別に解る男の心理』
多分、そーゆー事なのだろう。
これは五百年先の知識だ、人の心理面でも、色々な研究が進んでいるのかもしれない。
(口づける場所で、人の心理まで解るものなのか…?)
そんな疑問も抱えたまま、頁を開いていく。
とりあえず、南蛮の文字と思われるものは置いといて。
絵と照らし合わせ、仮想を立てながら、意味を噛み砕いた。
そうしていくうちに──……
改めて口づけと言うのは『好意を寄せる女への愛情表現である』と言う事を再認識した。
俺だって、あの子に口づけたい。
美依に想いを伝えたい。
もし、言葉で伝えるのが難しいのなら。
────口づけと言う形で、伝えてみたらどうか