〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第67章 蜜な想いはくちびるから《前編》❀徳川家康❀
「でも、家康に気に入ってもらえて良かった」
「俺は食べられるから、いいんじゃないとしか言ってない」
「それはつまり美味しかったって意味だよね?」
「……言うね、あんたも」
美依はひねくれた自分の言葉の真意を、ちゃんと読み取ってくれる。
もちろん、美依の料理が不味いわけない。
きっと、美依の作ったものなら、何でも美味しい。
……でも、そんな事は言えるわけもなく。
もっと素直に『美味しいよ』と言えたら、どんなにいいだろう。
「家康、お茶でも飲む?」
「あ…もらおうかな」
「じゃあ、淹れてくるから、ちょっと待ってて」
すると、美依は食べ終わったお膳を持ち、廊下へと姿を消した。
ぱたぱたと足音が遠ざかっていき…
部屋に一人取り残された俺は、変な静寂に包まれる。
(……美依の匂いがするな、この部屋)
それを感じてしまい、妙に心がざわついた。
と、同時に変な安心感もあって……
例えようのないこの感覚に、俺は心を浮つかせながら、部屋中を見渡す。
きちんと片付いた美依の自室。
衣桁にはいつも着ている桜色の着物が綺麗に掛けられ、花瓶には花も活けてあったりして……
その彼女らしい部屋に、改めて女の子の部屋にお邪魔しているんだなと、変な緊張感が生まれた。
(ん……?)
そのまま、ふっと文机に目をやる。
本が何冊か重なっており、その一番上の本。
普通の本とは違い、鮮やかな絵の描かれた表紙に目を奪われ、思わず手が伸びた。
────そのまま手に取った、一冊の本
その表紙に大きく書かれた字に、俺は目を丸くした。
『〇〇する場所の意味は?部位別に解る、男の心理』
なんとか読むことが出来た、その文字。
手に取ってみて、改めて解ったのは、これはこの時代の本ではないと言う事だ。
読めない文字がたくさんあるし……
こんなに鮮明な人の絵は見たことがない。
美依は五百年先の未来から、ここへ来た。
だから多分…これは五百年後の書物だと。
それを、俺は一瞬で理解した。
でも、なんだろう。
このやたらと興味を惹かれる、その文字。
男の心理が書かれている本なのか?
何をする場所の意味が書かれていると言うのだろう。