〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第67章 蜜な想いはくちびるから《前編》❀徳川家康❀
『口づけ』
それは愛しい者だけに贈る、愛情を表す行為だ。
もちろん俺も、愛しいあの子に、いつかはしたいと思ってるけど…
どうやら口づけには、する場所によって意味があるらしい。
『思慕』
『誘惑』
『欲求』
そして『愛情』
鈍感なあの子に俺の気持ちを伝えるには、
多少強引に、でも嫌われない程度に。
『口づけ』を武器に攻めるのもありかもしれない。
────美依、覚悟してて?
俺だって男だから
好きな女の子には…好かれたいんだよ。
俺のものにするために、口づける。
受け入れるなら…抵抗しないで。
頭から爪先まで、愛してあげるから──……
「ふぅ…ご馳走様」
「家康、味はどうだった?」
「うん…いいんじゃない。ちゃんと食べられるし」
お膳に箸を置き、美依に天邪鬼な感想を述べる。
すると、そんなひねくれた感想にも関わらず、美依はほっとした表情を浮かべた。
────初秋の気配がし始めた、安土城
いつの間にか茹だるような暑さも日に日に少なくなり、夕方近くになれば晩蟬も鳴き始めた今日この頃。
俺は城の美依の部屋に呼ばれ、一緒に早めの夕餉を食べていた。
『家康、練習の成果を見せたいから食べに来て』
そう美依に言われて、その日部屋を訪ねた。
どうやら美依は、最近政宗さんの元で料理を教わっているらしいと、秀吉さんから聞いている。
その練習の成果を見せたいと言うのは解るが…
はっきり言って、俺は適任ではない気がする。
辛い物好みの俺は、味覚が普通とは少し違う気がするし。
まぁ、光秀さんよりはマシだと思うが、それでも政宗さんや秀吉さん辺りに食べさせた方が、よっぽどいい感想を聞けるはずだ。
(それでも、他の奴には美依の料理は食べさせたくないけど)
美依への恋慕を自覚してから、俺は少し自己中心的になった。
好きな子は独り占めしたい。
折角料理を作るなら、自分が真っ先に食べたい。
……ひねくれた感想しか言えなくても
単なる片想いだとしても、そのくらいは許されるよな?
呆れる程に、受け身な自分。
それを変えたいと思っていても…
なかなかに持って、一歩を踏み出す勇気がないのも確かだ。