〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第66章 牡丹と微熱に魅せられて〖誕生記念〗❀真田幸村❀
「幸村〜〜!!」
と、その時。
雑踏の隙間から、手を振ってこちらに向かってくる、美依を発見した。
その瞬間、どきりと心臓が高鳴る。
美依は上手く人混みをすり抜けながら、小走りでこちらに駆けてきて……
やがて俺の目の前に来ると、申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「いや、そんなに待ってないから」
「幸村も浴衣着てきたんだね、なんか新鮮!」
「まーな、夏祭りだし…お前も浴衣だな」
「うん!今日のために仕立てたんだよー、どう?」
そう言って、少し恥ずかしそうにはにかむ。
生成の生地に細かな縞柄、そこに描かれた鮮やかな濃淡の牡丹。
華やかで可愛らしいその浴衣は、美依の雰囲気に良く合って、美依本人の魅力を一層引き立てていた。
そして、綺麗に編み込まれた髪や、いつもより艶っぽい化粧。
それは美依の『女』をより際立たせ……
その色香に当てられた俺は、褒める事もせず、そっぽを向いた。
「別に…普通だろ」
「え、似合わない?」
「んな事は言ってねー。どちらかと言えば、かっ…」
「か?」
「なんでもねー、さっさと行くぞ」
「わっ…ちょっと待って!」
思わず言いかけた言葉を濁し、祭りの方へとずんずんと歩いていく。
美依が小走りで付いてくる下駄の音が聞こえて…
俺は頬が熱くなるのを感じながら、情けない自分に腹が立った。
(仕方ねーだろ、可愛いなんて言えねー…それに)
行くぞと言って、手を引いてしまえば良かった。
手を握る機会すら失った事に、若干後悔を覚える。
どこまで自分は不器用なんだろう。
こんなんで…気持ちなんて伝えられるのか?
一抹の不安を覚え……
俺は思わず、小さくため息をついたのだった。
────そんな風に、俺と美依の逢瀬は始まった
いつものように、近くて遠い距離。
もどかしくて、淡くて甘酸っぱい……
そんな、夏の恋路の一頁が。
────…………