〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第1章 蜜毒パラドックス《前編》❀豊臣秀吉❀
「馬鹿を言うな、光秀!そんな事出来るか!」
「しー……広間まで聞こえるぞ、秀吉」
「駄目だ、それは無理だ、出来ない」
(……光秀さんはなんて言ったんだろう)
気にはなるが、何やら秀吉はご立腹の様子。
『光秀の考え』はあまり良い事では無いと、察していいだろう。
しかし、光秀も考えを変えないのか……
秀吉に言い聞かせるように話を続ける。
「あの大名が相手である以上『それ』が一番興味を引ける。大名の興味を引き、おびき出して一人になった所を捕まえる」
「それこそ無粋だろ、例えば俺と美依が本当の夫婦だとしたって、そんな事は晒すもんじゃない」
「全てを晒せとは言わない、障子越しに声だけでいい。それで十分興味を引ける。それとも…お前に大名をおびき出す、これ以上の『名案』はあるのか?お前の耳にも入っている筈だぞ、あの大名の癖は」
「……っっ!」
光秀のなんだか説得力のある言い方に、秀吉は口ごもってしまった。
なんの話なのだろう。
大名の興味を引くために『晒す事』って?
秀吉はしばらく無言で唇を噛んでいたが……
やがて、渋々納得したように、首を縦に振った。
「あくまでも『演技』だからな」
「解っている、ただ『それっぽい演技』にしろよ?広間から突き当りの部屋を用意してある。早くいけ、大名をすぐに追わせるように仕向ける」
「……解った、美依行くぞ」
何がなんだか解らないまま、秀吉が手を取る。
そして、そのまま光秀を残して、ずんずんと歩き出した。
賑やかな広間がだんだん遠ざかる。
思わず不安になって、秀吉に問いただした。
「光秀さん、なんて言ったの」
「そのうち解る、くっそ、光秀……後で覚えてろよ」
秀吉の立腹は変わらないようだ。
歩くままに振り返ると……
光秀が不敵な笑みを浮かべて、小さく手を振っていた。
────…………
「美依、中に入れ」
広間から真っ直ぐ歩いて、突き当りの部屋。
秀吉はその部屋の障子を開け、中に入るように促した。
そこは人気もなく、ほんのり行燈が灯っているだけなので、かなり薄暗い。
光秀が言っていた『用意した部屋』とはここの事なのだろうか?