〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第1章 蜜毒パラドックス《前編》❀豊臣秀吉❀
(これは演技、妻と信じさせるための……)
何度も心に言い聞かせる。
でも腰を抱く腕も、髪を梳く指先も……
全てが優しく、思わず勘違いしそうになってしまう。
それでも、演技だと解っていても……
もっと、もっと触れてほしい。
そんな風に思ってしまい、じっと秀吉を見つめる。
すると、その視線に気づいた秀吉は、何故か瞳を揺らめかせ……
大名に少し申し訳無さそうに切り出した。
「すみません、妻が少し酒に酔ったようです。夜風に当たらせて来ます」
「それはいけない、行ってください」
「申し訳ありません、美依、行くぞ」
「あ、はいっ」
腰を抱かれたまま、立ち上がる。
そのまま秀吉に寄り添われ、広間を後にした。
別に酔ってなどいないのに……
そんな事を思っていると、広間の外に出るや否や、秀吉に頬をむにっとつねられた。
「いひゃい!」
「美依、お前な……なんて顔してんだ」
「へ?」
「あんな場であんな目で見るんじゃない」
そんな事を言われても、全く解らない。
疑問符ばかりを頭に浮かべていると……
秀吉は頬から手を離し、少し呆れたようなため息をついた。
───と、その時。
「秀吉、美依」
庭の方から、聞きなれた声が掛かった。
反射的に、真っ暗な庭先を見つめる。
すると、庭の木の影から、ひょうひょうとした様子で光秀が姿を現した。
「光秀さん」
「どうした、二人でこんな所に出てきて」
「美依がちょっと酒に酔ってな……それよりそっちの様子はどうだ」
「ああ、あの大名…案の定だったぞ」
光秀がにやりと片眉を上げる。
話を聞くと、どうやら城門近くに大名の家臣達が、刀片手に待機している所を捕らえたと言う事だった。
やはり、大名はこの宴にかこつけて謀反を起こし、信長を狙っていたのだ。
「じゃあ、もう安心していいんですか?」
「まだだ、美依。大名…ねずみの親玉が残っているだろう?そいつを捕まえない事には、何も終わらない」
「宴に踏み込むか?」
「いや、そんな無粋な真似はしない。俺に考えがある……耳を貸せ、秀吉」
光秀は秀吉にこそっと耳打ちをする。
すると聞いた途端、秀吉は目を見開き、声を荒らげた。