〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第60章 君色想う、葵の日 ❀石田三成❀
「三成君、どうかな……?」
やがて、美依様が一着の着物を試着して、店の奥から出てきた。
その姿を見て、私は思わず息を呑む。
絞り染めに刺繍が施された、辻が花の着物。
灰桜色を基調としたそれは、可愛い美依様をより映えさせ、また華やかさも兼ね備え……
可憐な花柄が、本当に美依様に良く似合っていた。
「三成君……?」
「あ、す、すみません。とってもよくお似合いなので…見惚れてしまいました」
「み、見惚れたって、本当に似合ってるかな…ちょっと華やかすぎないかな」
「素敵ですよ、ではその着物にしましょうか」
「本当にありがとう…すごく嬉しい」
美依様が恥ずかしそうに俯く。
その姿を見るだけで、心に温かなものが広がっていく。
この方を喜ばすためなら、なんでもしてあげたい。
なんの損得もなしに、そう思えた。
その後、その着物に合う帯や小物類、羽織など一式を選び終え、会計をしようと……
呉服屋の店主と向かい合い、財布を出そうと袖に手を差し入れた時だった。
(……あれ?)
袖の中を漁っても、財布が出てこない。
おかしいな、いつもここに忍ばせているのに。
途端に嫌な汗が流れ始める。
もしかして、落とした……?
いや、単に忘れてきただけ?
どっちにしたってまずいだろう、この場合…!
思わず固まっていると……
隣にいる美依様が少し不安そうに私の顔を覗き込んできた。
「三成君、どうしたの?」
「あの、財布が……」
「お財布?」
「すみません、美依様。少し待っていていただけますか…店主様も、すぐに戻りますので……!」
「あ、三成君?!」
私は美依様と店主様に一礼し、急いで店を出た。
そして、走って御殿に向かう。
御殿に行けば取り敢えず金はある、財布の行方よりまずは美依様の着物代を取りに行くのが先だ。
(まさか、財布が無いなんて、なんて失態を犯したのだろう……!)
浮かれすぎて、そこまで気が回らなかった自分に腹が立つ。
そして、美依様に恥をかかせた事も。
私を待つ間、どれほど店主に白い目で見られる事だろう。
それを思っただけで、憤りを隠せなかった。