〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第58章 可憐に華、恋せよ乙女《前編》❀明智光秀❀
(これって…やっぱり、そうなの……?!)
こーゆー、もどかしい甘酸っぱい感情。
相手を考えるだけで、どうしたらいいか解らなくなって、恥ずかしくて、でも嬉しいみたいな。
こんな感情に、私は覚えがない訳ではなかった。
私だって『こんな気持ち』は幾度と経験してきた。
でも、認められないのは、やっぱり相手が光秀さんだからだ。
一番危ない所に、足を突っ込んだような。
せめて、モテ男秀吉さんとかであれば、素直に認めていただろう。
(私、素直じゃないなぁ…トホホ)
気持ちを認めるのには、勇気がいる。
でもね、私はそれを案外あっさり認める羽目になる。
それは『ヤキモチ』という名の、モヤモヤした感情。
それはいつしか心の中に広がり……
蓋を締め切って、瓶を思いっ切り振った後の炭酸水のように、知らない内に爆発寸前まで膨れ上がるのだ。
────…………
『光秀の好きな物?』
『好きな物とか趣味とか……』
『茶の湯と鉄砲じゃないか、やっぱり』
『茶の湯……そうなんだ!』
『美依、そんな事聞いてどうする』
『え、ちょっと参考までに……!』
『へーえ、お前がなぁ〜ほう〜』
『ちょっ…政宗、ニヤニヤしないで!』
(政宗、絶対怪しんでた……!)
思わず俯き、小さくため息をつく。
私は、お茶の葉と抹茶の甘味を風呂敷に包み、大事に抱えながら、日暮れ間近の城下を歩いていた。
目的地は、光秀さんの御殿。
手に持った風呂敷包みの中身は、ちょっとしたお礼だ。
政宗から、光秀さんが茶の湯が趣味だと聞き、味音痴の光秀さんでもお茶の味は解るのかと……
そんな、単純な思い付きだった。
そして、この前助けてくれたお礼も兼ねて。
私は浮き足立つ心を抑えて、光秀さんの御殿に向かう。
(喜んでくれるかな、光秀さん)
妙に心がうきうきしてる。
光秀さんにちょっとお礼を渡しに行くだけなのに…
心の中が、なんとなしに弾んだ自分がいた。
光秀さんに会えると思うだけで……嬉しい。
なんかもう、重症化してるかも、私。
光秀さんに対して、認められない想い。
それがもう、堰を切って溢れてしまいそうだと…
私は心の中では、もう解っていた。