〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第57章 〖誕生記念〗二人だけの誕生日《後編》❀織田信長❀
────それは、間違いなく、私が信長様に渡した簪
「美依?」
私が信長様に抱きつくと、信長様は不思議そうに名前を呼びながら、私の腰に手を回した。
『美依』
やっぱり、名前を呼ばれる方がいい。
約束を……果たしに来たよ、信長様。
大望を持って、冷えてしまった貴方を温めに。
あの日、指切りをした約束は、忘れない。
「……信長様」
「なんだ」
「私、約束しましたよね。貴方が大きくなって、とても大きな野望を持って、そのせいで冷えてしまった時に…また貴方の元に帰ってきますと」
「え……?」
「約束を果たしにきたんです。だから、貴方も…約束を守ってくださいますか?」
瞬間。
信長様の紅い瞳が見開かれる。
幼かった貴方は、独りぼっちで寂しい目をしていた。
『うつけもの』を演じ、小さな家に独りでいた。
でも……あの日、貴方は笑ってくれた。
私と居ると安らぐと、目元を緩めた。
その時は、すぐに離れ離れになってしまったけど……
今度は離れません、絶対に。
「────ああ、そうだな」
すると、信長様はふっと目を細め。
あの頃にはない、艶を帯びた声で、こう言った。
「約束通り……貴様の全てを奪うとしよう」
信長様、貴方を愛しています。
時を駆けて掴んだ、運命の恋。
本能寺で貴方を助けた、あの日から──……
私と貴方の運命の歯車は動き出した。
すれ違った日もあった。
傷つけ合った日もあった。
でも、こうして今は一緒にいる。
幼い貴方に教えた、私の『愛する人』は
全て本当の事だった。
それは、未来の貴方なんだよと。
たった一つ、それだけは言えなかったけれど。
でもあの日の約束が、やっと繋がった。
貴方は、私が消えてしまった後。
簪を手に、もしかしたら泣いたのかもしれませんね。
あの日は、本当にごめんなさい。
涙も拭ってあげられなかったけど。
でも、私達は再びめぐり逢えた。
今度こそ、貴方に手を差し伸べられるように。
私は誰よりも傍に居るよ。
そして、共に祝いましょう。
貴方が生まれた日の悦びを。
───今度は、消えて居なくなったりしないからね?