〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第57章 〖誕生記念〗二人だけの誕生日《後編》❀織田信長❀
『────貴様が、好きだ』
ねぇ、信長様。
不思議な運命もあったものですね?
まさか、幼かった貴方にまで愛を囁かれてしまうなんて。
それは、恋かどうかなんて解らない。
ただ、寂しい感情を埋めてくれた女の人に見た、錯覚かもしれない。
それでも──……
私は貴方の笑顔が見られて良かった。
まためぐり逢った時には、その時こそ。
私は貴方の恋人になって、全てを捧げるから。
だから……全てを奪ってください。
涙を拭う手は届かなかったけど。
今度こそ、掴んだら離さないように。
『信長様、愛しています────…………』
「────美依」
「………?」
大好きな声で名前が呼ばれたような気がして、ふっと瞼を開けると。
こちらを見下ろす、優しい紅い瞳と視線が絡んだ。
それを見ながら、数回まばたきをする。
ぼんやりとしていた視界が、だんだんとクリアになっていき……
気がついてみれば、私は『大人の信長様』に膝枕をされ、信長様が苦笑しながら私を見下ろしているのが解った。
「信長様……」
「俺が取りに行っている間に居眠りをするとは、いい度胸だ、美依」
「ここは…天主?」
「そうだ」
「今日、何月何日ですか…?」
「五月の十一日だろう、寝惚けているのか?」
そう言われ、むっくりと起き上がりながら、周りを見渡す。
五月十一日、天主。
そこには、晩酌の途中の徳利と猪口、それに私が作ったおつまみの煮物が並び。
うるさいくらいの、嵐の音が耳についた。
私が過去へタイムスリップした時と同じ状況。
同じ日の、同じ時間。
────まさか、夢だったの……?
「……あの者、今頃どうしているだろうな」
「え?」
「先程話しただろう、元服して間もない頃、やはり誕生日に嵐になって…その時祝ってくれた奴が居たと」
「はい…」
「俺が大人になったら会いに来ると言っていたが…変わった女だった。今頃は将来を約束したと言う相手と、一緒になっているやもしれぬ」
そう言うと信長様は懐から何かを取り出した。
天竺牡丹の絵柄が入ったとんぼ玉の簪。
それは多少古びていたが、蝋燭の光を纏い、手を動かすと光を孕んで綺麗に光輝いた。