〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第57章 〖誕生記念〗二人だけの誕生日《後編》❀織田信長❀
「────本当に可笑しな女だな、貴様は」
「え?」
「会って間もない男の誕生日祝いをしようと言い出したり、何か企んで毒でも盛ろうとしているのかと思いきや、そのような素振りもない」
「そ、そんな事しませんよ!」
「そうだろうな、それに何故だか……」
すると、信長様は穏やかに口元を緩め。
お酒のせいで少し赤くなった瞳も緩め、やんわりと呟いた。
「……貴様は、安心する」
(信長様……)
それは、初めて見る優しい表情だった。
信長様があんなに寂しそうな顔をし、またこんなに安心したような顔にもなる。
大人の信長様より、ずっと心の表情が表に出やすいのだと思った。
考えてみれば……
元服したてということは、まだ十三とか十四なわけで。
まだまだ出逢った頃の信長様より、ずっと繊細で、きっとまだ消化しきれない感情を色々抱えているんだろうな。
そんな風に思えて、私は思わず目の前の少年を見つめた。
「貴様、夫は」
「え?」
「もう結婚していてもおかしくない歳だろう。夫はどうした」
「え、えぇと……」
そう言われて、思わず口を噤む。
まさか、未来の貴方と恋仲です…とは言えないよなぁ。
私は手元に視線を移すと、心の中で大人になった信長様を思い描きながら、少年信長様に答えた。
「夫は居ないですよ。まだ結婚していないですから」
「結婚していないのか、そうか」
「でも…将来を約束した人なら居ますが……」
「え?」
「あ……」
思わず口からぽろりと漏らすと、目の前の少年は紅い目を大きく見開いて私を見た。
何言ってんだろ、私……!
こんな事、この子に言ったってしょうがないのに。
まさか夫は居るかなんて聞かれると思わなかったから、つい口から出てしまった。
「ほ、ほらお酒をお注ぎしますから、飲みましょう?貴方のお誕生日祝いですから、本当にお誕生日おめでとうございます」
私は今言った発言を誤魔化すように、信長様に徳利を差し出した。
しかし、少年は私の言葉を真摯に受け止めたようで。
差し出した私の手首を、骨ばった細い手で掴むと、なんだか必死な様子で私に問いかけてきた。