〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第56章 〖誕生記念〗二人だけの誕生日《前編》❀織田信長❀
(さっき、五月十二日って言わなかった……?)
五月十二日。
それは、信長様のお誕生日だ。
つまり、この目の前に居る、少年信長様も……
私はその事に気が付き、そのまま立ち上がると、ほぼ目線の高さが同じの彼に、その事を尋ねた。
「もしかして、貴方、今日誕生日じゃないですか?」
「……何故、それを知っている」
「あ、あの、お名前を聞いて、尾張の大名様のご子息と理解したのでっ…!確かお誕生日って誰かが言ってた気がして……!」
「……」
(あああ、言い訳苦しい、なんで私聞いたんだろう)
さっきから答えてくれるのをいい事に、信長様に質問攻めの私。
しどろもどろだし、相当怪しいと思われているよなぁ……
そんな風に思っていると、少年信長様はふっと瞳を伏せ、くるりと私に背を向けた。
「別に誕生日など、どうでもよい」
「え?」
「祝ってくれる者もいない、俺自身もただ、自分が生を受けた日としか認識はしておらん。忘れろ」
「……っっ」
その少し寂しげな言い方に、思わず胸が詰まる。
祝ってくれる人もいないとか……
この頃はまだお父さんやお母さん、居たはずだよね?
でも、信長様の家は確か家督争いでいがみ合っていたと、信長様自身から聞いたことがあった。
だって、確かお兄さんが信長様を殺すように刺客を差し向けたりしていたんだよね……?
(あ…………)
そこまで考えて、私はハッと思いついた。
うさぎを逃がしてしまった責任をどう取るか。
我ながら、とてもいいアイデアだと思う!
私は足を動かし、信長様の真正面に移動すると、少し俯く信長様の手をきゅっと握った。
そして私の行動に、ふと視線を上げた少年信長様を見ながら、思いついた『アイデア』を言葉にする。
「私に、お誕生日を祝わせてもらえませんか?」
「は……?」
「うさぎを逃がした責任を取って、貴方にご馳走を作らせてください!そして、二人でお誕生日をお祝いしましょう?」
「貴様……」
「そーゆー責任の取り方じゃダメですか?」
私の言葉に、まだあどけない表情の信長様が、大きく目を見開く。
信じられないといった様子で。
その見開いた紅い瞳には……笑う私の表情が映っていた。