〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第5章 境界線のジレンマ《前編》❀徳川家康❀
「あ……鳴ってるね、雷」
「家康……」
「ん?どうし……」
その刹那。
背中に温かなものを感じ、思わず身体が強ばった。
首だけ振り返って見ると、美依が背中に身体をもたれ掛けさせてきていて……
しっとりと濡れた着物に、直に美依の体温を感じて、心臓がどくどくと音を立てて跳ね上がる。
「美依、どうし、たの……?」
「あのね、私…そのっ、雷が苦手で……」
「雷、怖いの?」
「うん……だから、こうしてても、いい?」
そう言って、申し訳無さそうに見つめてくる。
その子犬のような子猫のような、守ってやりたくなる本能をくすぐる瞳。
それは己を掻き乱し、すぐさま一線を越えてしまいそうになるけれど……
美依は計算とかじゃなく、無自覚にこういう事をしてくるんだよな…と、改めて素直すぎる性格にため息が出た。
「構わないけど…俺も濡れてるから、冷たいよ?」
「それでも、いい」
「でも、それじゃ着物を脱がせた意味がないし……なら、少し待って」
一回美依を離させ、濡れた着物に手を掛ける。
濡れた所に美依をもたれ掛けさせるなんて、そんな事はさせられない。
そのまま上だけ脱ぐと、改めて美依に背中を向けた。
こっちの方が、濡れた着物より、まだマシだろう。
「はい」
「家康……」
「こっちのが、まだあったかいでしょ」
馬鹿みたいに、晒した肌が火照っているのが解る。
今でもぎりぎりの所で保っている境界線。
美依に触れられたら、自分がどうなるか解らなかった。
(でも、美依を不安にさせとけない。俺が我慢する事で、美依が安心するならば……)
そう思いながら、再度首だけ振り返り美依を見る。
すると、美依は少し安心したように小さく笑い。
『ありがとう』と言って、身体をもたれ掛けさせてきた。
途端に伝わる、美依の体温。
触れた所の肌が、鋭く敏感になり……
ピリピリと痛い程に、感覚が尖る。
湿った美依の身体から伝わる、柔い熱と柔い感触は。
あっという間に、全てを飛び越えそうになるけれど。
それでも頑なに留まり、抵抗するように美依から視線を外した。