〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第5章 境界線のジレンマ《前編》❀徳川家康❀
パチパチパチ…と言う、囲炉裏の火の音。
それに、しゅるしゅる、ぱさり…と美依が着物を脱いでいく音が響いて。
やけにそれだけが、鋭く耳に入って行く。
美依が背中の後ろで、その肌を晒していっているのだと思うだけで……
妙に心がざわつき、落ち着かなくさせる。
(平常心、平常心…)
何かのまじないのように、心で唱えて。
なんとか、その心中を落ち着かせていくが…
それでも、美依の事が気になって。
気になって気になって、仕方なくて。
少しだけ首を動かし、美依の方に視線を向けた。
(……っっ)
瞬間。
その姿が視界に入り、思わず息を呑む。
自分に背を向け、着物を脱ぐ美依。
その濡れた後ろ姿は、艶めかしく……
薄い襦袢が、美依の身体に濡れてぴったりと張り付き、その女らしい身体の線を見事に映し出していた。
そして、ぐっしょり濡れた髪からは、ぽたりぽたりと雫が落ち。
伝って流れる様などは、なんとも言えず煽情的で。
思わず触れようと伸ばしかけた手を必死で静止し、もう一度美依に背を向け、胡座をかき直した。
(何をしようとしてるんだ、俺……!)
越えてはならない一線を越えそうになり。
咄嗟に心臓辺りの着物を、ぎゅっと掴む。
そこは、信じられないくらいに高鳴って、手へと伝わり。
顔も火照って、高揚し始めたのが、触らなくても解った。
こんな所で美依の『女』を感じ。
もし、触れてしまったら、止まらずに暴走してしまう。
そんな予感があった。
醜い『雄』の部分を晒してしまう。
今まで美依を大切に大切にしてきた過程を、全てぶち壊すような。
でも──……
あの身体に、触れたい。
「くそっ……」
美依に聞こえないくらいの、小さな声を漏らす。
聞こえないように言ったつもりだったのに、美依の耳にはそれが届いたのか。
背中越しで、不思議そうな声を出した。
「家康、何か言った?」
「い、や……別に、何も」
「そう……ねぇ、なんか雷鳴ってない?」
「え?」
美依にそう言われ、改めて耳を澄ます。
すると、確かに遠くで雷が鳴る音が耳に入ってきた。