〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第5章 境界線のジレンマ《前編》❀徳川家康❀
「美依、足元気をつけて!」
「だ、大丈夫…わぁ、すごい強くなってきた!」
二人で山小屋を目指すうちに、雨はどんどん強くなり……
ぬかるみ始めた足元に気をつけながら走っていると、二人でずぶ濡れになってしまった。
美依の頭に掛けてやった羽織もあまり役に立たなかったようで。
ようやく小さな山小屋に着いて中に入った時。
羽織の中まで、ぐっしょり濡れねずみになってしまった美依に気がつく。
「すごい、びっしょり……」
「今、火を起こすから。寒い?」
「少し寒い……でも大丈夫だよ」
山小屋の中には幸いにも、半畳ほどの小さな囲炉裏があった。
どうやら、乾いた薪もあるようだし、火打石もある。
美依が小さく丸くなる横で、種火を作り……
それから付け木に種火を移して、薪を焼べる。
燻らせながら薪を燃やすと、囲炉裏に炎が灯り……
そのお陰で、狭い山小屋の中が少しずつ暖かくなり始めた。
「わぁ……家康、ありがとう。あったかいね」
美依が可愛い笑みを浮かべて、囲炉裏に寄る。
濡れた着物もそのままに、髪を搔き上げ、囲炉裏に手を伸ばしているけれど……
(そのままじゃ風邪ひくよな、絶対)
ずぶ濡れの着物を纏っているのが気にかかる。
着替えはないが、濡れたものを着たままでは、身体は温まらないし。
それに、火があるなら、着物も乾かした方がいい。
「……着物、脱ぎなよ」
「え?」
「ずぶ濡れのを着ていると、風邪ひくよ?それに、その着物を乾かさないと帰れないし」
「で、でも……」
着替えが無いのに脱ぐ事は、躊躇われるのだろう。
男の前であるわけだし……
だが、そんな事は百も承知だ。
確かに目のやり場には困るけど、風邪なんて引かせられない。
ゆっくり美依の横に座ると、そのまま背を向けた。
そして、背中の向こうの美依に、胡座をかいたまま話しかける。
「大丈夫、見ないから」
「家康……」
「なるべくそっちは向かないようにするから……脱いで着物を乾かして」
なるべく優しい口調で言うと、美依は少し遠慮がちに『ありがとう』と言い。
しばらくして、背中でしゅるしゅると布擦れの音が聞こえてきた。