〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第44章 姫百合と艶やかな純情《前編》❀明智光秀❀
「お前から酒が飲みたいなどと、誘いを受けるのは珍しいな」
────その日の夕刻
公務終わりの光秀さんを捕まえた私は、一緒にお酒を飲みましょうと、さり気なく誘い……
光秀さんの御殿の縁側で、一緒にお酒を嗜んでいた。
身軽な着物に着替えた光秀さんに、私は持ち込んだ蜂蜜酒を振る舞う。
二つある徳利の片方に、例の媚薬を溶かした。
私は光秀さんに気づかれないように、媚薬が入っていない方の徳利から、自分の杯に注いでもらう。
そして一緒に酌み交わしながら……
光秀さんに効果が現れるのを待った。
「珍しい蜂蜜酒だから、一緒に飲みたいなぁって…美味しいですね」
「俺は酒は、水に少し味が付いている、程度にしか解らん」
「えぇ〜そんなぁ」
(……結構飲んでるよね、光秀さん)
光秀さんは、酌をしたら、した分だけ飲んでしまう。
媚薬入りの蜂蜜酒は、もう半分もない。
だが……光秀さんに、これといった変化は見られないようだ。
お酒に強いのは知ってるが、赤くもなってないし。
ふわふわと微睡む様子もないし……
まさかとは思うが、信長様に騙された?
おかしいなぁと思いつつ、もう一度媚薬の入っている方の徳利を持ち上げ……
光秀さんに笑いながら、話しかけた。
「光秀さん、空になってます。注ぎますね」
「随分俺ばかりに飲ますんだな?」
「えっ…そ、それは光秀さんにも美味しいと思ってもらいたいからです」
少し苦し紛れの言い訳をして、光秀さんを見る。
すると、光秀さんはその琥珀色の目を細め……
なんだかとっても優しく笑って、私の顔を覗き込んだ。
「心配するな、お前と飲む酒なら…なんでも美味い。酒だけではない、一緒に過ごす時間も…俺にとっては何よりも安らぐ、大事な時間だ」
(光秀さん……)
甘く低い声で囁かれ、心臓がキュンと音を立てる。
光秀さんは本当に私を大切に思ってくれているんだな。
そんな風に思えて、すごく心が温まった。
きっと光秀さんは、私を一番に考えてくれていて。
すごく……好きでいてくれているんだ。
相変わらず……優しいな。
────そこまで考えた時
(あれ…………?)
温まったはずの心が、
ズキっと軋むように傷んだ。