〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第44章 姫百合と艶やかな純情《前編》❀明智光秀❀
「────美依、心ここに在らずだな」
パチンと小気味よい音がして、信長様が碁石を置く。
その瞬間、私の負けが決まり……
私の陣地は、真っ黒な碁石に埋め尽くされた。
今日は天主で、信長様に呼び出されて一緒に囲碁していた。
信長様に囲碁を教わってから、私も自分なりに囲碁の勉強をし……
それなりに勝負が出来るようになってからは、たまに信長様に呼び出されては囲碁をしていた。
(心、ここに在らず、かぁ……)
私がふうっとため息をつくと。
信長様は脇息にもたれ、怪訝な表情を浮かべた。
「悩み事か、美依」
「悩み事と言うか、えぇと……」
「貴様がそのような暗い表情をしているのは、俺が気に食わん。話してみろ、助言くらいはしてやる」
信長様って俺様なのに、なんだかんだ優しいんだよな。
それに、信長様は光秀さんの上司で、付き合いも私なんかよりずっとずっと長い。
もしかしたら……解決の糸口が見つかるかも。
「信長様、光秀さんが素顔をさらけ出したりする事って、あるんでしょうか」
「と、言うと?」
「私のただのわがままなんですが……」
私は意を決し、ずっと心の中で思っていた事を、信長様に話してみた。
もっと光秀さんの『本当の顔』が見たい事。
その余裕が崩れる姿を、私も感じたい事。
せめて、二人で過ごす時はくらい……と、際どいとこまで思わず言いかけて、私は慌てて口を噤んだ。
でも、察しのいい信長様は、それだけで色々理解したようで。
その形のいい唇で弧を描き、可笑しそうに笑ってみせた。
「成程な、閨での話か」
「そ、そこまでは言ってませんっ……!」
「同じ事だろう。しかしだな…光秀は元からあの様な男だ。仕事柄上、決して表情には出さぬし、内面も晒さぬしな」
「そう、ですよね……」
信長様の言葉に、思わずシュンとして俯く。
まぁ……そんな簡単に問題が解決するわけないか。
そう思って、諦めモードに入っていると。
信長様がおもむろに席を立ち、奥の部屋へと消えた。
いきなりどうしたんだろう、待っていていいのかな?
そんな風に考えて、少しそのままでいる。
すると、信長様はすぐに帰ってきて、私の横に座り……
何かをスっと差し出した。