〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第42章 微色の三日月《前編》❀伊達政宗❀
「こうしていても時間が勿体無い、早く行こう」
「わっ……」
すると、太一さんは当然のように私の肩を抱いた。
身体を密着させられ、思わずゾワッと寒気が立つ。
そんな私にも気付かず……
太一さんはニコニコと勝手に話を進めてくる。
「この先の道をちょっと入った所なんだけど、意外な穴場なんだ。結構美味しいよ」
「いえ、本当に結構ですのでっ……!」
「遅くなったら送ってあげるから、別に一緒に一夜を過ごしても構わないよ?」
「はぁ?!」
「いやぁ、美依さんは小さくて本当に可愛いなぁ、食べちゃいたくなるよ」
(何言ってんの、この人…危ない匂いがする!)
身をよじって逃げようとしても、がっしり肩を抱かれてしまい、逃げる事も出来ない。
そのまま歩き出してしまって、本当に勝手だ。
私の話なんて聞く耳を持たないのだから。
「本当に、離して、くださいっ……!」
半ば半泣きになって訴える。
このまま夕餉だけでは済まされない匂いがぷんぷんし始め、私は絶対絶命のピンチに、思わず下唇を噛んだ。
と、その時だった。
「はい、そこまでな」
背後から涼しい声が聞こえ、太一さんが立ち止まる。
肩を抱かれたまま、くるっと振り返ってみれば。
青い着物に袴姿、深い青の瞳を不機嫌そうに歪め……
太一さんの肩をぐっと掴んでいた。
(政宗っ……!)
「なんだ、お前。気安く触るな」
「俺の女を、何連れていこうとしてる?」
「……は?」
「俺の女だ。美依、こっち来い」
そのまま流れるような仕草で、政宗が私を引き寄せる。
政宗はそのまま私を背中に隠し、太一さんをきっと睨みつけた。
私は何が何だか解らずとも、政宗が助けてくれたんだ……と、必死に政宗の背中にしがみつく。
すると、そんな様子を見た太一さんが、最高潮に不機嫌そうに私に問いかけた。
「美依さん、そいつ知り合い?」
「え、えと……」
「だから言ってんだろ、こいつは俺のモンなんだよ」
「……っ、お前には聞いてねぇ!」
政宗に横槍を入れられ、太一さんが声を荒らげる。
すると、そんな様子なんて気にしないように、政宗は私の方を向くと、くいっと自然に顎を掬った。