〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第40章 《御礼作品》私のイケナイ執事さん《前編》❀織田信長❀
「お茶が入りましたよ、お嬢様」
カップに注がれた紅茶から、馨しい香りが漂う。
私は天主の一角に置かれた文机で、『執事の信さん』が入れてくれた紅茶に、思わず口元が緩んだ。
────信長様と始めた『お嬢様と執事ごっこ』
私は最初、信長様が執事役でそれっぽい会話が少し出来ればいいな…なんて、その程度に考えていたのだが。
信長様は、どうやら違ったらしく……
献上品のティーポットやカップとソーサー、茶葉まで用意して、天主で小さなお茶会が始まってしまった。
文机の上を片付け、お茶菓子なんかも用意したりして、かなり本格的である。
(私が多分、執事さんは紅茶を入れてくれたりする、とか説明したからだよね…絶対)
『執事の信さん』は優雅な手つきで、ティーポットからカップに紅茶を注ぎ……
そのあまりに慣れた感じに、思わず見惚れてしまったほどだ。
信長様は紅茶なんか入れた事ないだろうに。
見よう見まねで、出来るようになってしまったのかな。
私はドキドキしながら、カップを手に取ると、紅茶を一口飲み……
まろやかに口の中に広がる風味にびっくりして、思わず目を見開いた。
「わぁっ…おいしい!」
「お気に召していただけて、光栄です」
「こんなにおいしい紅茶は初めて飲みました!」
「それは良かった。では、茶菓子の『くっきー』もどうぞ、お嬢様」
お嬢様。
その一言に、また心臓がドキリと跳ね上がる。
どうしよう、完璧じゃないか。
信長様の扮する『執事の信さん』は、非の打ち所のないくらい、文句なしに格好いい。
スマートな立ち振る舞いだけではなく、仕草も。
信長様は完璧なる『執事』を演じている。
それに、元々顔立ちは整っているし、背も高くて身体のバランスもいいし。
それだけじゃなく、全体的な雰囲気が変に色っぽいと言うか……
その低く艶のある声で『お嬢様』なんて呼ばれると、その度に心臓が過敏に反応してしまう。
「どうしました、くっきーはお気に召しませんか?」
「え?」
「眉間にシワが寄っていますよ」
「き、気のせいです。すごくおいしいですよ!」
思わず、むしゃむしゃとクッキーを頬張ると。
信長様がくすりと笑い、指で私の唇の端を優しく拭った。