〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第39章 サクラノアメ-朔夜-❀石田三成❀
「なんか、拍子抜けしちゃったね」
ふと、美依様がこちらに振り返り。
小さく苦笑しながら、話しかけてきた。
「そうですね、色々覚悟していたのに」
「信長様って……やっぱりすごい人だね」
「はい、あの方には敵いません」
私も同じように笑みが零れる。
あのような寛大な心が、家臣達をまとめ上げるのだと。
天下統一は、やはりあの方はしかいないな。
そんな風に、やたら誇らしく思った。
これから、恩返ししていかねばなるまい。
いつかあの方が世界を動かす日の、歯車になろう。
改めて心に決めて、手網をきゅっと握りしめた。
「ねぇ、三成君」
「はい」
「少し寄り道していかない?」
「え?」
「あの桜……昨日の嵐で散っちゃったかなと思って」
────美依様にそう言われ
私達は少し寄り道をし、あの枝垂れ桜の元へと赴いた。
桜は昨日の嵐にも負けなかったようで、今日も春の日差しを受けながら、見事に咲き誇っていた。
手を繋いで、二人で見上げれば……
昨日とは全く違う美しさに見えて。
儚く揺れる枝や花が、瞬間の美を映し出していた。
「……綺麗だね」
「ええ、昨日は気づきませんでした。貴女しか見ていなかったので」
「……っっ、そーゆー恥ずかしい事言わないで」
「だって、本当の事ですから」
くすくすと苦笑いすれば、美依様がほんのり頬を染める。
美依様は昨日、どんな気持ちでこの桜を見上げていたのだろう。
私が来るまで、何を考えていたのだろう。
ふとそんな事が、頭の中に過ぎった。
「三成君、私ね。昨日ここで…三成君の事を思っていたの」
すると、美依様が私の心の中を読んだかのように、ぽつりと呟いた。
表情を伺えば、どこか清々しい笑みで。
その黒い宝石のような瞳に、昨日の想いを映し出しているようだった。
「あの夜の事を、思い出にしたい自分と、したくない自分と。両方がせめぎ合ってた。全て最後にしようと思って来たのに…三成君に来て欲しいって、馬鹿みたいに願ってた」
「美依様……」
私は、絡めた指を再度握り締める。
そして、美依様の顔を見ながら、思いの丈を打ち明けた。