〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第39章 サクラノアメ-朔夜-❀石田三成❀
馬で駆けて、四半刻。
安土からは少し離れた…小さな湖の畔。
美依様と逢瀬で訪れ、そして。
二人で見つけた、古い古い桜の樹木。
(────……居た)
しとしとと降り注ぐ、春の雨の合間に。
その小さな姿を、ハッキリと捕らえた。
艶やかな、赤い振袖姿。
大きな樹木の下で佇む美依様は、薄暗い空気の中で、たった一つの鮮やかな炎のように見えた。
「美依様っ……!」
馬を乗り捨て、名前を呼んで、急いで駆け寄る。
瞬間、美依様の身体がびくっと震え。
ゆっくり視線が向けられると、美依様は一瞬安心したような表情になったが……
それはすぐに強張り、そっぽを向いた。
「三成、君、なんで……」
「探しましたよ、貴女が居なくなったと聞いて」
「……っっ」
「ここに居て、良かった……」
美依様はすでに雨に濡れ、細い髪には雨露が絡んで、しっとりと濡れそぼっていた。
華奢な肩も……
寒いのか小刻みに震えていて、私がそっと肩を掴んでも、その震えが止まる事は無かった。
「……なんで、ここへ来たの……?」
「貴女が…ここで私を待っているような気がして」
「う、うぬぼれないでよ。私は三成君なんか、どうでもいいんだから」
「なら、何故ここに居たのですか?」
「……気まぐれだよ、ただの」
「見合いから逃げたのも、気まぐれ?」
「……っっ、関係ないでしょ?!」
すると、美依様は肩にある私の手を振り払い。
キッと目を釣り上げて、見上げてきた。
まるで痛々しい、子猫のような瞳。
純粋すぎて、傷つく事を恐れているような……
そんな視線を向けながら、声を荒らげた。
「放っといてよ、私の事なんかどうなってもいいと思ってるくせに!」
「誰が、そんな事を言いましたか?」
「私が誰とお見合いしても、構わないんでしょ?!」
「それとこれは、話が別でしょう!」
「私には同じ事だよ!だから、放っといて!」
そのまま、くるりと背中を向ける。
小さな小さな後ろ姿。
私が傷つけた……心も、身体も。
だから、この手で癒したい。
貴女を抱き締め、もう一度この手で。
そんな風に思う事すら……間に合わないのか?