〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第39章 サクラノアメ-朔夜-❀石田三成❀
────ヒラリ
その時だった。
私の目の前を、薄紅色をした小さな花弁が……
ひらりひらりと儚く舞って、通り過ぎて行った。
『三成君、咲いたらきっと綺麗だろうね』
(あ……)
刹那、よぎった美依様の声。
あれは、まだ如月の寒い日の事。
たった一度だけ、美依様と逢瀬をした時に見つけた、桜の木。
咲いたら、もう一度見に来ようと……
指切りをした、あの日の約束。
「まさか、美依様……!」
私はすぐさま御殿に戻り、自分の愛馬に跨ると。
ある直感を元に、早馬を飛ばして駆け出した。
きっと美依様はそこに居る。
あの桜の木の所に。
私が来るのを待っている。
そんな気がして、ならなかった。
気がつけば、鉛の空からは涙が零れ落ち始め。
もしかしたら、美依様が泣いているのではないかと。
そんな風に思えて……夢中で馬を走らせていた。
────…………
『大きな桜の木だねー!』
『枝垂れ桜ですね、随分樹齢が経っているようです』
『こんな場所にあるなんて、気が付かなかったなぁ』
『そうですね、私も知らなかった』
『三成君、咲いたらきっと綺麗だろうね』
『なら、咲いた頃、また見に来ましょう』
『本当に?約束だよ!』
『ええ……約束です、美依様』
────まだ寒空の、芽吹くには早すぎる頃だった
初めての逢瀬、初めての時間。
そして……初めての、二人だけの約束。
きっと、あの頃から、この想いは始まっていたのかもしれない。
あの方を、とても可愛いと思った。
素直で優しい、健気な所。
澄んだ瞳、柔らかい質の声。
『三成君』
名前を呼ばれるだけで、嬉しかった。
あの方が笑うと、心が晴れた。
その一つ一つの感情。
それが『恋情』と言う名前だった事に。
こんな事態になってから、気がつくなんて。
「美依……!」
馬を走らせる事すら、もどかしかった。
いち早く、あの方の元へ。
空を駆けられたなら、すぐさま飛んでいって、この腕に抱き締める事が出来るのに。