〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第37章 アプリコット*プリンセス《生誕記念》❀豊臣秀吉❀
「あん、おおきくなったら、とうさまのおよめさんに、なるんだもん!」
(杏……ありがとな)
俺は心の中で杏に愛しさを覚えつつも、首を左右に振る。
それを見た杏は、不思議そうに首を傾げたが。
いくら娘でも、譲れないものはあるんだ。
「それは無理だ、杏」
「なんで?」
「それはな、父様のお嫁さんは、母様だけだからだ」
「そうなの?」
「そうだよ。杏……よく聞け」
俺は、まだ幼い娘に諭すように言葉を紡ぐ。
まだ理解はしないだろう……でも。
大切な事だから、話しておかねばならない。
「杏、人にはな、運命の相手がいるんだ。絶対その人でなければ駄目だって言う……例え生まれ変わったとしても、必ず結ばれる人がいるんだよ」
「うんめいの、ひと」
「そうだ、父様にとって母様がそうであるように、杏にもきっとそんな相手が現れる。だからお嫁さんは、その人のために、大事に取っておきなさい。父様は杏の運命の人にはなれないけど…杏の幸せを、誰よりも祈っているよ」
杏にはまだ難しいな。
そんな風に思っていると……
杏は少し黙り込み、やがて何か理解したように頷いた。
「うん、わかった」
「ん、いい子だな」
「だから、あん。まちゃむねおじちゃんでいい」
「ぶっ……『でいい』って、お前大物になるぞ」
「おーい、秀吉さん、杏!」
すると、桃を抱きかかえた美依が、にこにこと笑って近づいてきた。
そして、俺達二人を見ると、首を傾げ。
少し不思議そうに、数回瞬きをした。
「何話してたの?」
「んー、杏との秘密かな」
「え、何それ、ずるい」
「ひみつなのー」
「あんちゃ、ずるい!ももも、とうさまとひみつー!」
「桃、暴れないの、結構重いんだから!」
「ははっ、じゃあ今度は桃にも同じ話しような」
少しむくれる桃、それを必死になだめる美依と。
何やら、スッキリした表情の杏。
そんな家族を見ながら、心からの笑みが零れる。
愛しい愛しい、かけがえのない存在達よ。
お前達が居るから、俺は立っていられる。
ここに、自分の居場所に。
お前達は、俺が羽ばたくための羽根であって。
疲れた時には身体を休める、拠り所であるから。