〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第1章 蜜毒パラドックス《前編》❀豊臣秀吉❀
「別に嫌じゃないよ、私は秀吉さんにくっついて居ればいいだけだし……それに秀吉さんの役に立てるから」
「美依……」
「上手くいくといいね、色々」
すると、秀吉は優しく笑んで頭をくしゃりと撫で……
そして『お兄ちゃん』のような口調で言った。
「お前は本当にいい子だな、美依」
指に髪が絡み、梳かれる感じが心地よい。
秀吉にとっては、いつもの仕草だけれど……
(ああ、やっぱり……この人の事、好きだな)
そんな事を思い、目を細める。
すると、秀吉は安心したように息を吐いた。
そのまま頭から手を離すと、手馴れた手つきで打ち掛けを着付けていく。
最後に髪をまとめ上げて、綺麗に結っていき……
秀吉は懐から簪を取り出すと、額の脇上に、すっ…と挿した。
「よし、出来上がったぞ。鏡で見てみるか?」
「うん」
そのまま姿見に、姿を映す。
完璧なまでに着付けられた打ち掛け。
綺麗に結われた髪。
そして──………
額の近くには、挿してくれた簪がキラキラ光っていた。
思わず鏡を見ながら、簪を指で触る。
簪の根元には桜が透かした金の装飾。
そこから、華奢に硝子玉と金の鎖が絡んで……
首を動かすとシャラシャラと綺麗な清い音を立てた。
「可愛い簪だね……!」
「お前への礼の気持ちだ、付き合わせちまうからな」
「ありがとう、似合う…かな」
「ああ、すごい可愛いよ。お姫様だ」
お世辞無しに褒めている事が解り、思わず顔が赤くなってしまう。
こうだから……秀吉は人たらしと言われるのだ。
まぁ、それに捕まってしまったのは自分だけれど。
「顔が赤いぞ?」
「ひ、秀吉さんがいきなり褒めるから」
「似合うかなって聞いたのはお前だろ?」
「うー……」
思わず納得がいかないで、唇を噛み締めていると。
秀吉はくすっと笑って、すっと手を差し出してきた。
「じゃあ、行くぞ。今日は頼むな、でもお前は普通にしていればいい。料理でも食って楽しんでろ」
謀反の大名を捕まえる宴。
でも、そんな不安を微塵も感じさせない、優しい言葉。
(この人は、本当に……優しくて、好き)
思わず表情も緩む。
敵わないなぁと思いつつ……その手をゆっくり握りしめた。