〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第1章 蜜毒パラドックス《前編》❀豊臣秀吉❀
秀吉に片想いをし始めてから、もう随分経つ。
向こうからは妹としか見られていなくても……
それでも、気持ちを殺す事は出来なかった。
少しでも傍に居られるだけで幸せ。
それで役に立つならば……そんなに良い事は無い。
「……よし、頑張ろう!」
気合いを入れて、今着ている小袖を脱ぐ。
襦袢一枚になり、打ち掛けの下に着る掛下を手に取った時だった。
「……美依、居るか?」
部屋の襖の外から声が掛かった。
聞き間違える筈がない、この少し落ちついた優しげな口調は。
いつも心に想う、好きな人の声だった。
「秀吉さん?」
「ああ、開けるぞ」
「わっ……ちょっと待って!」
止めるのも聞かず、襖が開けられる。
そして入ってきた……いつもよりかしこまった格好をした秀吉と、バッチリ目が合った。
「あ……」
こちらの姿を見て、秀吉は目を見開く。
当然と言えば当然、だって襦袢一枚の姿だ。
襦袢とは下着だ、下着姿を見られているの訳で。
しかし、秀吉は取り乱すことも無く。
バツの悪そうに額の髪を掻き、そのまま話を続けた。
「そろそろ着替えると思って手伝いに来たんだ、いきなり開けて悪かったな」
「べ、別に、大丈夫、だけど……」
「大丈夫って顔じゃないな、真っ赤だぞ。着付けてやる、それを貸せ」
秀吉は軽く苦笑をし、手から掛下を取ると。
そのままするすると慣れた手付きで着付け始める。
襦袢一枚姿を見たのに……動じていない。
それがなんだか、少し悲しかった。
しかも、この慣れている感じ。
一体何人の女の子と夜を過ごし、こうして着付けてあげてきたのか……
(……完璧に女の子として見られて無いよね、私)
『秀吉さんは人たらし』
それが解っていても、少し悲しいな。
そんな事を思って、少しふくれっ面になる。
すると秀吉はそんな表情を見て、少し申し訳無さそうに口を開いた。
「悪かったな、美依」
「え?」
「宴で、俺の妻役とかやらせて。いくら信長様発案の策とは言え、兄貴の嫁なんて嫌だろう?」
気にしているのは、そこじゃないのに。
でも、その本音は胸に押し込め、秀吉の話に乗ることにする。