〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第37章 アプリコット*プリンセス《生誕記念》❀豊臣秀吉❀
今日は、桃と杏の誕生日だ。
先程から御殿で祝宴が執り行われ、それはそれは賑やかなものだった。
『まちゃむねおじちゃん』の作った料理も絶品で。
二人は食べて騒いで、それはそれは元気だったのだけれど。
でも、そろそろ戌の刻に差し掛かる。
元気な二人もそろそろ眠い時間だろう。
証拠に、目を擦り始めているからな。
「秀吉さーんっ」
すると、後からゆっくり歩いて美依がやってきた。
子供を生んでもなお、まだ可憐な少女のような美依。
にこにこと朗らかな笑みは、母親の雰囲気もあるけれど。
それでも、やっぱり可愛いものは可愛い。
俺の、自慢の妻だ。
「美依も疲れたんじゃないか?」
「大丈夫だよ、このくらい。いつも二人に振り回されてるんだから、お母さんは強いんだよ」
「そうかそうか、いつもありがとな。二人をもう寝せるなら、晴れ着脱がすの手伝うぞ」
「そうしてくれると助かるな、ほらこっちに一人おいで」
美依が俺から桃を引き剥がし、自分に抱きつかせる。
すると、桃は目をしょぼしょぼさせながら、美依の首にまとわりついた。
娘達も、今が一番可愛い時期か……
大きくなったら『父上、大嫌い』と言われる日も来るかもなぁ。
そんな事を考えながら、腕で微睡む杏の背中を撫でていると。
美依が少しそわそわした雰囲気で、俺の顔を覗き込んだ。
「ねぇ、秀吉さん。二人を寝かせたら暇だよね?」
「まぁな、何かあるのか」
「うん、ちょっと二人で行きたい所があるの」
「もう夜だぞ?」
「うん、それでもいいの。だって……」
「だって?」
「今日は桃と杏の誕生日だけど、秀吉さんの誕生日でもあるんだから」
────そう、今日は三月十七日
本当に偶然と言うか、何と言うか。
娘達の誕生日は、俺が生まれた日でもある。
そんな奇跡のような出来事に、俺は俺の誕生日を忘れなくなった。
まぁ、それは愛する娘達の誕生日だからなのだけれど……
それでも美依は、毎年娘達とは別に、俺の誕生日も祝ってくれていた。
そんな健気な姿はいつまで経っても『女』である事を忘れない、美依の魅力の一つだと思う。