〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第36章 淡紅染まりし蜜一夜《後編》❀織田信長❀
「本当にすまなかった、俺…気持ちが高ぶってあんな事しちゃって……」
「いえ、謝ってくれるなら、もういいんです」
「でも、あの一発は効いたな。しかも俺が二人をくっつけるきっかけを作っちゃうなんて、皮肉しかないな」
一度深々と頭を下げた右京さんが、苦笑しながら自分の頬を押さえる。
まだ少し腫れてるかな。
そんな風に思ったが、右京さんは男の意地にかけても、絶対あて布とかはしたくないんだそうだ。
男の人って、よく解んないなぁ……
「しかし、あの人…どっかで見たことあるような気がするんだよな、どこだったか……」
すると、右京さんがお茶を啜り、首を捻って考え始める。
『あの人』って信長様の事だよね。
まぁ、この町の城主だもん、顔を知られていてもおかしくはない。
そんな風に考えていると……
茶屋が少し騒然とし始め、私と右京さんは二人で顔を見合わせた。
「なんか騒がしくなったな……」
「なんでしょう……」
「誰かこっちに来る」
右京さんの言葉に視線を泳がす私。
しかし……
そのこちらに来ると言った『誰か』の姿を確認した途端。
私は思わずびっくりして、目を見開いた。
「ほう…出かけると言って出ていったのは…男と逢瀬をするためか、美依。貴様、本当に懲りぬな」
私と右京さんが座る席に、堂々たる威厳で現れたその人。
漆黒の着物に、純白の羽織を着て。
艷めく黒髪の間から覗く、紅玉のような瞳は……
まるで燃えるように、強い意志を持っていた。
信長様、今は私の恋人。
あまりに突然すぎる登場に、私は金魚みたいにぱくぱく口を動かすしかなく……
「な、のぶっ…なんでここに……?」
「小耳に挟んでな、貴様が男と会っているようだと」
「それだけで来たんですか?!」
「悪いか、俺は非常に不愉快だ」
腕を組んで、威厳たっぷりなくせに。
子供みたいに、拗ねたような表情を見せる信長様。
それはなんだか可愛くて……私は呆れながらも苦笑するしかない。
だけど、騒ぎは突然に。
右京さんの発した一言が……
信長様の怒りに触れる羽目になる。
「うわ、嫉妬かよ、みっともねー…ちょっと男と会ってただけで探しに来るなんて、どれだけ束縛強いんだ、怖っ」