〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第35章 淡紅染まりし蜜一夜《前編》❀織田信長❀
「────美依、町娘と夕餉ではなかったのか?」
再度その人から発せられた声で。
私は呪縛から解けたように正気になった。
そしたら、また次から次へと涙が溢れてきて……
信長様が助けてくれたんだ。
そう思ったら、余計に涙は止まらない。
「信長、様ぁ……」
「迎えに行く途中で何やら騒がしいかと思えば……何故このような事になった」
「信長様、迎えに来てくれたんですか……?」
「他に迎えを寄越すのが心配だったから、俺が自ら来た。美依、貴様も俺の問いに答えろ」
「うっ……」
私は涙を拭われながら、一部始終を信長様に話した。
ただの食事かと思っていたら、合コン……出会いの飲み会の席だった事。
それを知らずに参加してしまい、しかも酔っ払ってしまった事。
優しくされ、送ってくれるかと思いきや……その人に襲われてしまった事。
改めて話してみると、情けないったらありゃしない。
信長様は静かに私の話を聞いていたが……
その不機嫌そうな表情は変わらぬままで。
やがて、話を聞き終わると、呆れたように呟いた。
「貴様は日頃から鈍感だとは思っていたが……これほどまでとはな」
「え?」
「出会いの飲み会の席だと気づいていたなら、何故己の弱味を晒すような事をした。酒に酔わせて女を連れ帰るなど……少し考えれば解る事だろう」
「ご、ごめんなさい……」
「……しかも」
「あっ……」
先ほど開かれ乱れてしまった、私の胸元に手を伸ばし、信長様は鎖骨辺りにやんわり触れる。
その薄い皮膚を指で撫でながら、最高潮に不機嫌になって言った。
「このような痕まで付けられおって……」
「え……?」
「気付かなかったのか?鈍感もここまで来ると重症だな」
痕って、痕って……まさか。
私は自分で必死に胸元を見たが、鎖骨辺りじゃ見えるはずもない。
そう言えば、ピリッとした傷みがあった……
ようやくそれに気がついて、頭に血が上る。
まさか、き、キスマークを付けられるなんて!
(うわぁ、信じられない……!)
恥ずかしくなって、信長様の顔を見れない。
思わず視線を逸らしてしまったが……
信長様が、こうぼそっと呟いた一言は聞き逃さなかった。