〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第35章 淡紅染まりし蜜一夜《前編》❀織田信長❀
「────美依さん、大丈夫?」
私は右京さんに支えられながら、店を後にし。
大通りに出る道を、二人で一緒に歩いていた。
完璧に酔っ払った……
お酒に弱いのは解っているのに、私って馬鹿。
そんな事を考えつつ、右京さんにもたれ掛かる。
「らいじょうぶ、れす……」
あ、呂律もあまり回っていない。
そんな事に今更気づいて情けなくなる。
さっさとお城に帰ってゆっくり寝よう。
さすがに安土城までは送ってもらえないから、途中までで。
こんな姿して帰ったら、怒られちゃうなぁ……
そう思うと、若干落ち込んでしまった。
(でも、寒くはないな…逆に暑いくらいだよ)
最近少し暖かくなって、春めいてきた安土の町。
今は夜になってもう遅いせいか、小路には人なんて一人も歩いてはいない。
そんな中を、二人でゆっくりゆっくり歩き……
もう少しで大通りまで出る、といった所で。
何故か右京さんは、ピタリと足を止めた。
「右京、さん……?」
「美依さん、少しいい?」
「え?……あ」
右京さんを見上げると、薄い笑みを浮かべていて。
何故か小路の隅に、私を寄せた。
まるで追い詰められるように、私が壁に背中を付けると。
右京さんは私の顔の横に手を付いて……
私をまるで閉じ込めるようにして話し出した。
「ねぇ…美依さんは、好きな人居るの?」
「え……?」
「居るのか居ないのか知りたい」
「え、ええと……」
そう言われ、思い浮かんだのは。
俺様で横暴で……それでも優しい、紅い瞳を持った男の人。
私は、右京さんに素直に頷いた。
私は信長様が好きだ。
あの方しか……好きになれない。
すると、右京さんは私の顎に指を掛け、俯いた顔をグイッと上に向かせた。
「右京、さん……?」
少し乱暴な仕草に、私が驚いて目を見開くと。
右京さんの、綺麗な灰色の瞳と視線がかち合った。
瞬間、まるで凍りついたように動けなくなる。
右京さんは、熱を孕んだ瞳をしていた。
何かを我慢しているような……
熱っぽい情を宿した『男』の目。
私が思わず喉を鳴らすと、右京さんはフッと笑って…
優しくも艶っぽい、色香を帯びた声で言ってきた。