〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第32章 如月の雪紅華《生誕記念》❀上杉謙信❀
(……お前という女は…………)
ますます小さくうなだれる美依を目の前にして。
俺は心に溢れた愛しさで、胸が痛くなった。
今日一日、こちらに気づかぬ程走り回って。
こっそり隠れて、甘味を用意したりして。
────それは全て、俺を喜ばせる為だと
喜ばせようと、ひた隠しにして準備を進める美依。
必死なその姿が想像出来て……胸が詰まった。
「佐助、少し席を外してくれるか」
俺が促すと、佐助は小さく頷いて、足音も立てずに台所を出ていった。
美依と二人きりで対峙すると。
俺は美依が手に持っている『ばーすでーけーき』の、周りに塗ってある白いものを指で掬い、口に運んだ。
(────甘いな)
口の中で、とろっと蕩けたそれは……
まるで、美依の優しさそのもののような気がした。
「うん、美味い。お前が作ったものなら何でも美味いな」
「謙信様……」
「この白いのは何という」
「あ、生クリームです」
「ほら、お前も食べてごらん」
俺は再度『生くりーむ』を指で掬い、美依の口元に、生くりーむをまとった指を差し出した。
俺の行動に、美依はほんのり頬を染め。
少し躊躇っているようだったので、俺はその指で美依の唇をツンとつついた。
すると、美依はぺろっと唇を舐め……
そのまま生くりーむを掬った指も、躊躇いがちに舌を這わせた。
「甘いだろう」
「んっ…はい、甘いです」
「だが、俺はこれ以上に甘いものを知っている」
「……んっっ………!」
俺は舐められた指で、美依の顎を掬うと。
そのままやんわり唇を、己の唇で塞いだ。
全てを溶かすように、舌を絡めていけば……
美依は次第に顔を蕩けさせ、どんどん赤く染まっていく。
「んっっ…んぅ……!」
ちゅっ…ちゅぅ…ちゅぱっ……
台所に儚く響く、甘い水音は。
如月の冷たい空気に混じり、色濃く変わっていく。
『生くりーむ』以上に甘い、美依の唇。
それは美依と出会い、恋仲になって、初めて知った事だった。
俺を虜にさせる、蜜の味。
さらに俺を溺れさせて……離れられなくする。