〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第32章 如月の雪紅華《生誕記念》❀上杉謙信❀
「幸村……死に急ぐとは悲しいものだな」
俺が口元に笑みを浮かべて、そう言うと……
冷や汗を流しながら刀先を見つめていた幸村は、大きくため息をついた。
そして、上目遣いでこちらを見ながら『降参』といったように口を開く。
「解りました、解りましたから刀を収めてください。ったく、斬られちゃ堪んねー」
「良い心掛けだ、言っておくが嘘を言ったら即刻首が飛ぶからな」
すっと刀に弧を描かせて、再度鞘に収めると。
幸村は安心したように脱力をした。
誰でも死に急ぎたいわけではない、命が惜しければ口を割れば良いだけのこと。
幸村は何か言いにくそうに、若干口篭りながら……
観念したように口を開いた。
「佐助と美依は、ある場所で今準備してるんです」
「ある場所?一体何の準備だ」
「謙信様、今日何の日か、解ってます?」
────…………
「佐助君、これは味見出来ないよね……?」
「そうだな…形が崩れたら意味ない」
「クリームもスポンジケーキも大丈夫だとは思うんだけど……」
「あとは愛を込めて、美味しくなるおまじないかな」
(────居た、二人で何をしている)
佐助と美依の話し声が聞こえる。
幸村の助言通り、城の台所に直行してみれば……
佐助と美依は、何やら訳の解らない単語を並べながら、訳の解らない事をしていた。
いや……『訳の解らない』事では無いか。
今日が何の日か。
それを幸村に教えられ、そのために二人は忙しなく動いているのだと。
それを思えば、邪魔をするのは無粋かもしれない。
しかし。
『煙玉ましまし』の仕置きはせねば。
俺は台所の入り口の壁に、背を持たれて立つと。
さり気なく会話に混じってやることにした。
「愛を込めてまじないをするのか」
「そうだね、謙信様の誕生日だし」
「どのようにして、愛を込める?」
「やっぱり美依さんが念を入れるしかないかな」
「それは見ものだな…上手くいけば良いがな」
「え?」
二三度会話を交わした所で、二人はようやく余計なのが混じっている事に気がついたらしい。
二人して、くるりとこちらを向くと……
顔を真っ青にさせて、手から杓子をぽろっと落とした。