〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第32章 如月の雪紅華《生誕記念》❀上杉謙信❀
「正直に言え、言わぬと……」
「謙信様、どうどう」
「何か隠している事は解っている」
「わぁ、なにやってるんですか、二人とも!」
その時。
先程姿を消した美依が廊下の奥から、顔を真っ青にして走ってきた。
今日初めて、美依が口を利いてくれたと。
それだけで浮つきそうな心をぐっと堪える。
これは手間が省けた。
佐助に問いただすより、美依に直接聞いた方が早いだろう。
俺は刀の柄から手を離すと、そのまま傍に来た美依を捕えるように壁際に追い込み……
壁と腕の中に美依を閉じ込めると、その黒真珠のような瞳を見据えながら尋ねた。
「美依、今日はやたら忙しそうだな」
「え……あ、はい」
「先程俺とすれ違っても、気が付かなかったな」
「嘘?!ごめんなさい……」
「そんなに忙しいなら手伝ってやろう」
俺がそう言った途端。
美依は見事に顔を引きつらせ……
首を左右に振りながら、何やら表情を強ばらせた。
「い、いいえ!大丈夫ですから!」
「何故だ、俺が居ると不都合か?」
「え、何というか、そのっ……!」
「謙信様、壁ドン似合うな、さすが」
「佐助君、見てないで助けてー!」
美依が悲痛に叫んで、佐助に助けを求める。
何故そんなに嫌がる、俺が手伝ってはならないのか?
すると、佐助は変わらずの無表情ですっと近づいてきて……
一瞬ふっと口元を緩めて、こう言い放った。
「忍法煙玉、ましまし!」
────ボウンッッッ!!
「なっ……!」
刹那、目の前に大量の白煙が広がり……
視界が遮られ、何も見えなくなる。
しかし、次の瞬間。
腕の中の美依がするりと抜け出したのだけは解った。
「美依……!」
「謙信様、ごめんなさい……!」
「美依さん、こっち!」
「佐助君、ありがとう!」
美依と佐助の声が交互に聞こえ。
見えないながらも美依を探そうと、辺りを見渡し腕を伸ばすが……
伸ばした腕は空を斬り、何も掴めぬままで。
やがて白煙が収まってみれば、美依の姿も佐助の姿もなく、己一人が廊下で佇んでいた。