〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第4章 華火と微熱と光秀さん《後編》❀明智光秀❀
「……三日後の神社の祭り、一緒に行くか?」
それを尋ねた途端、美依は目を見開き『えっ』と小さく声を発した。
屋台が出て、花火も上がる。
そう言って、嬉しそうに微笑んだ美依の顔は、今でも鮮明に心に焼き付いている。
「行きたかったんじゃないのか、誘っているんだ」
「え、えぇと……」
「行くのか、行かないのか」
「う……」
それでも煮え切らない美依。
誘えば、素直に笑って『はい』と言うと思っていたのに。
ならば、もう……賭けに出るしかないか。
そう思い、顎に触れた指で、美依の唇をそっとなぞる。
親指の腹で、その下唇をゆっくり撫でれば……
いつだったか美依の飯つぶを取ってやった時のように、美依は軽く息を飲んだ。
「酉の下刻に、神社の鳥居の下で待っている。来たかったら、来い」
「光秀、さ……」
「……俺は、お前が来るまで、待っていてやる」
「……っっ」
「紅が薄くなってしまったな…差し直せよ、女なら」
そう言って、いつものように、頭を撫でる。
そのまま席を立ち、葛まんじゅうは食べずに茶屋を後にした。
案の定、美依は後を追っては来ない。
振り返って、茶屋の方に視線を向けたが。
その小さな姿は、確認出来なかった。
「何を、やっているんだろうな、俺は」
思わず、頭を撫でた手のひらを握る。
まだ美依の感触が残っているような気がして……
己の馬鹿さ加減に、溜息を漏らした。
────可愛い、美依
頭を撫で、柔らかい髪が指に絡むたび……
心が疼いて、もっとその先に進みたいと。
何度も何度も、何度も思った。
いつしか心に芽生えた、甘い感情は。
いつしか激情となって、己を喰らい尽くしそうなくらい。
びっくりする程の激しさで、膨らんでいった。
陽だまりのような、美依との時間。
そんな温かい時間は、いつしか己を侵食し。
────そして、美依が倒れた『あの日』
軽すぎる身体を抱え、御殿に運んで。
褥に苦しそうに横たわる美依を見て……
この手で守ってやりたいと、心底思った。