〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第4章 華火と微熱と光秀さん《後編》❀明智光秀❀
「美依を呼んできてくれないか」
美依の代わりに葛まんじゅうを運んできた店主に、意を決して願い出る。
すると、店主は優しい温かな笑みを浮かべ…
『少し待っていてくださいね』と、快く美依を呼びに行ってくれた。
少し間が空き…
遠慮がちに、美依が奥から姿を現す。
おずおずと言ったように、ゆっくり近づいてきて…
傍にやってくると、目も合わせず、俯いたままでぼんやりと立ちすくんだ。
「……座ったらどうだ」
「す、すぐ用を聞いて、また片付けに戻るので……」
「いいから座れ」
煮え切らない美依の様子に、少し苛立ち。
立ち上がって、美依を向かいに強引に座らせる。
そして再度席に付き、美依を真正面から見た。
こうして美依を見るのは、とても久しぶりで。
その艶やかな髪や、華奢な体付きを見ているだけで…
何故か心は、思いがけないほど浮ついた。
「最近、おかしいぞ。何故俺を避ける」
浮ついた心を落ちつかせ、直球に美依に尋ねる。
回りくどい言い方をしたって無駄だ。
時間が勿体ないし、合理的では無い。
だが、美依は黙って俯いたままで…
このままじゃ答えそうも無いので、ほのかに赤るんでいる頬に手を伸ばし、やんわり触れた。
そのまま顎を掬い、くいっと上を向かせる。
美依は一回息を詰め、そして唇をきゅっと噛んだ。
「……俺はお前に、何か嫌がる事をしたか」
「……」
「御殿に運んだのが、そんなに嫌だったか?怒らないから、黙ってないで言ってみろ」
問い詰めても、美依はだんまりを決め込む。
理由が解らなければ、解決もしない。
美依が何も言ってくれなければ、堂々巡りするだけだ。
なのに──………
「……っっ」
微妙に潤んだ瞳。
微かに熱を孕んだ、その黒真珠の瞳は、何故か身の内の熱を焚きつける。
その薄桃色の唇から、言葉が紡がれる前に……
それを、いっその事塞いでしまおう。
そんな感情さえ生まれてきて、戸惑いが心に波風を起こす。
しかし、これ以上嫌われてたまるか。
今にも喰らいつきそうな心を抑え…
何とか今日来た『本当の理由』を口から紡いだ。