〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第4章 華火と微熱と光秀さん《後編》❀明智光秀❀
『光秀さん、茶の湯が趣味ですよね?なら、抹茶が好きなんじゃないかと思って』
可愛らしくそう言って、美依はあの日、甘味を差し出した。
食べ物の味はよく解らない。
興味もないし、腹に入れば皆一緒だ。
しかし───…………
あの日、美依が出した葛まんじゅうは。
何故か、不思議と美味く感じられた。
口の中で崩れる葛と、抹茶の風味を帯びた餡。
それは、何故か心の中まで満足させた。
何故だろうと考えて……ふと、思った。
そうか、美依が俺の事を考えて。
好きなものを、と選んでくれたものだったからだ。
あいつは、何気なくそうしたのだろう。
でも……俺は嬉しかったよ。
可愛い美依。
素直で、頑張り屋で、健気で。
真っ直ぐで、眩しすぎる笑顔も、柔らかい声も。
俺は、お前の事が────…………
(今日も、相変わらずに避けているな、美依は)
昼過ぎ、いつものように茶屋を訪れて。
美依の様子に、席で葛まんじゅうが運ばれて来るのを待ちながら、光秀はため息をついた、
あの日、美依が倒れて御殿に運んだ。
それから……美依の様子が、明らかにおかしい。
城で顔を合わせては、真っ赤になって逃げ。
茶屋を訪ねれば、奥へ引っ込んでしまう。
『今、忙しい』
『洗い物があるから、先に食べていてくれ』
『用を思い出したから、もう帰るとこだ』
なんだかんだ、わざとらしく理由を付け……
慌てて逃げる美依の背中を見ていた。
何か、気に障るような事をしたか。
御殿に運んだのが、そんなに嫌だったか……
だって、あの日まで美依はいつも通りだった。
『光秀さん、何を食べますか』
『いつものでいい』
『すぐに持ってきますね』
毎日繰り返した会話を、いつも通りにして。
からかって、ふくれっ面にさせて。
頭を撫でれば、気持ち良さそうに目を細めた。
いつしか毎日の習慣になっていたそれは、不思議と己を心地よくさせ……
美依と向かいあわせに座り、共に過ごすひと時は、心を陽だまりのように温めた。
それが崩れるのは、正直不本意だ。
今更…美依は何をそんなに避けるのだろう。