〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第30章 〖V.D企画〗甘い恋人-政宗編-❀伊達政宗❀
「そのっ…甘味を作ってたの、政宗に」
「俺に甘味を?」
「うん…今日はバレンタインデーだから」
「ばれんたいんでー……?」
すると、美依はまたぽつりぽつりと小さな声で説明しだした。
『ばれんたいんでー』とは、美依の居た世にあった行事で、二月十四日に、女が好きな男に甘味を贈る日なんだそうだ。
恋仲の男にだったり、または片想い中の男に贈って告白したり……
また、恋仲同士の『愛の誓い日』でもあるらしい。
そんな訳で、美依はこっそり、俺に内緒で準備していたと言う事だった。
「で、この様子だと……失敗したんだな、甘味」
「うん……何回やっても上手くいかなくて……」
「だからか、この焦げ臭い匂いは。それに、焦げた塊の山」
「うっ……」
俺が机の上を見て言うと、美依はますます俯いて小さくなる。
そんな様子を見て、俺は思わず愛しさが込み上げた。
美依が、料理作りがあまり得意では無い事は、前々から知っていた。
だが、俺の為に、一生懸命甘味を用意しようと…
ここで一日中、悪戦苦闘したのだろう。
(そんな、顔中真っ黒くして……)
だから美依は、俺に『ゆっくり帰って来い』などと言ったのだ。
俺をびっくりさせるために。
頑張って甘味を用意して、喜ばせるために。
「ほら……そんなに泣くな」
俺は美依の方に向き直ると。
指ですーっと、美依の目元を拭った。
そして、ニヤリと笑い…
その気持ちに対しての『返答』を美依に返す。
「それ、俺に作ってくれたんだろ?」
「うん、まぁ…失敗作だけど…」
「なら、いただきます」
「え?!」
俺は美依が目を丸くするのを尻目に、皿の上から焦げた塊を指で掴むと。
その塊に、ぱくっとかぶりついた。
途端に口の中に広がる、焦げの味。
苦い、確かに泣きたくなる程苦いけれど…
中のほうは、なんかやたらと甘い。
まるで脳まで蕩けるような、しっとりとした甘さ。
その甘さが舌に絡みつく感覚に…
俺は思わず、くすっと苦笑した。
なんか、麻痺させられるみたいだ、と。
美依の想いがたっぷり詰まった甘味は。
きっと俺が作る料理より、上等品だ。