〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第29章 《桃源郷物語》欠片-kakera-❀伊達政宗❀
(クソッ…………!)
「わっ、政宗?!」
衝動のままに美依の手から万華鏡を奪い取る。
そして、そのまま万華鏡を覗き込んだ。
「あらあらあら……まぁ……」
女宿主が何やら、びっくりしたような声を上げる。
しかし、そんなのはどうでもいい。
その小さな世界を覗き込み、くるくると回した。
シャラン……
シャラン、シャラン……
硝子の粒が音を立てて世界を作る。
回す度に、その幻想的な世界は姿を変え、そして儚くも光り輝くその瞬間は……
有り得ないくらい、綺麗で。
これからの情事を思わせるような。
そんな気がして、苛立った。
「万華鏡を返す、部屋の鍵は」
「あ……こちらですわ。奥から一つ手前のお部屋です」
「解った」
問答無用で万華鏡を女宿主に押し返すと、鍵を奪い取り。
無言のまま美依の腕を引いた。
「政宗、ちょっとっ……!」
美依の抗議の声も聞かずに歩き出す。
その苛立つ理由にも、苛立った。
あの、あまりに綺麗過ぎる小さな世界。
それは美依を犯そうとする自分に、酷く不釣り合いな気がした。
(俺は美依を気持ち良くしたい、それだけだ)
美依が快感に歪む顔さえ見れれば満足なのだ。
それで自分も気持ち良ければ、尚良い。
例え、そこに気持ちが無くても。
────気持ちって、なんだよ
次々に身のうちから溢れ出る、苛立ちと疑問と。
心の中から聞こえる、自分に反する感情と。
それらが一緒になり、頭がぐちゃぐちゃになった。
この宿に来た本当の理由が。
自分の気が付かない所で見え隠れしているようで。
────何故か、怖かった。
乱暴に手を引き、宿の奥へと消える二人を、宿主の女は少し痛そうな目をして見送っていた。
そして、小さくため息をつく。
「覗いてしまいましたね、これでもう今宵の事は完璧に『無』に帰しますわよ。あとで傷つかなければ良いですが……二人に幸があらんことを」
これぞ『桃源郷』よね。
女宿主はくすりと笑い、そう一言呟いた。